再びコロナ禍のモヤモヤに悩む前に、知っておきたい「脳」の適応力
脳研究者・池谷裕二教授に聞く
コロナ禍でも驚くべき適応力
――コロナ禍という「非常事態」で、私たちの脳はどのような状況にあるのでしょうか?
池谷 非常に特殊な状態にあり、驚くべき適応力の速さを見せていると言えます。例えばオンライン会議。これまで全くなじみのなかった人でも、いざとなるとすぐに慣れて、今ではすっかり世間に浸透しましたよね。
――今や当たり前という会社もめずらしくないですよね。
池谷 人は体の免疫よりも、心つまり脳の免疫のほうが早くできてしまうのです。過去最高の感染者を記録する日々が続いても、私たちの多くは第1波の頃ほど怖がってはいないのではないでしょうか。もちろん今後の状況次第ではありますが、おそらく今春に比べて自宅待機する人は少ないのではと思います。
――そんななか、今までになかった気付きはありましたか?
池谷 今までの「社会のありかた」について気がついたことがあります。今年4月の時点で、学生に「対面授業とオンライン授業のどちらがよいか」アンケートを取ったのですが、6割の生徒がオンラインを希望したんです。
さすがデジタルネイティブの世代だなと思ったのですが、驚いたのは、対面よりもオンライン授業の方が学生からの質問が多いこと。また、(オンラインなので)きちんと話を聞いてくれているのかな?と不安に思いきや、問いかけにもこれまで以上に的確に返ってくる。
しかも、今までは「周りに人がいる」ことであまり発言や質問ができなかった生徒たちも、この傾向がみられました。これをきっかけに、今までの社会はひょっとしたら「社交性を重視しすぎていた」のではないかと思うようになりました。
一般的に就職活動などでは、ハキハキとして周りと調和できるかといった社交性を重視した評価がされがちです。けれども、「対面」でのコミュニケーションが苦手でも、すごい才能を持っている人はたくさんいます。これは彼らにとってはもちろん、社会にとってもすごくもったいないことです。
でも、こうした状況がコロナをきっかけに大きく変わるかもしれない。今ではそう思うようになりました。