舘ひろし主演で映画化されたベストセラー『終わった人』、三田佳子主演でドラマ化された『すぐ死ぬんだから』に続く、内館牧子さんの最新「老後」小説『今度生まれたら』(いずれも講談社)が刊行される。
結婚至上主義時代を生きてきた主人公・佐川夏江が、人生のターニングポイントを振り返りながら、家族をはじめとした他者と関わる中で、70歳の今やるべきことを見つけていく物語――。
内館さんは、今作で何を描きたかったのか。そして彼女自身は70代の今とこれからをどう生きようとしているのか。赤坂の仕事場を訪ねた。
(取材・文:徳 瑠里香、写真:林 直幸)
――『今度生まれたら』で70歳の主人公を描いたのは、内館さんが70代を迎えられたことがきっかけですか?
そうね。ある雑誌のインタビュー記事に書かれた「内館牧子さん(70)」の(70)にすごくショックを受けたんです。(69)とは全然違うなあと。29歳から30歳になった時と同じような衝撃でした。その時に70歳の主人公を描いてみたいと思ったんですね。
――主人公は70歳ですが、30代の私にも気持ちが重なる部分があってすごく面白かったです。「今の自分の人生を生きる」、エールをもらいました。
70代をターゲットにした本だから、あなたの年齢だと倍以上ですよね。そう言ってもらえてよかった。結構怒る人がいそうなテーマでしょう? 今回描いたのは、何をするにも「時」があるってことだから。女性誌でもなんでも「いくつになってもチャレンジできる」「年齢は関係ない」って言うけど、今から私がボルダリングができるかと言ったら、ねえ?
――ボルダリングはさすがに……
できないです(笑)。やっぱり自分のことを考えても、何かをやるには「時」がある、そう思うの。30代、40代はなんだって挑戦したらいいと思うし、私自身、50代で大学院に入り直してね。当時は、年齢なんて関係ないと思っていました。
私としては到底納得できない男女共同参画論から土俵を守らないといけない。ただそれだけでしたから。そのために相撲を学問として学ぼうと、受験をして、54歳で東北大学大学院の修士課程に進学したわけです。
当時の雑誌で、社会人になってから大学院に進学した有名人が「妻も母も仕事人も大学院生も全部やっています」といったことを書いているのを読んで、私も仕事をしながら通えるものだと思っていたんですよ。今思えば、あれは彼女たちのリップサービスでした。
平日は仙台で暮らし、金曜の夜20時過ぎにゼミが終わったら東京に戻って、週末にエッセイの連載執筆や対談の収録など仕事をして、月曜の朝にまた仙台へ。課題もあるし、英語のテキストなんて難しくて訳せないの。2年で終わるところが3年かかっちゃいました。
――50代であってもなかなかハードな生活ですね。
50代はまだ体力もあったけれど、今は絶対にできない。私、修了した時は、70歳までに博士課程に通って博士号を取ろうと思っていたのね。年齢は関係ないと思っていましたから。だけど無理無理!50代と60代と70代はやっぱり違う。やるべき「時」があるなあって実感しましたね。
だから『今度生まれたら』で書きたかったのは「時を外すな」ということです。70代の方が、若い頃の夢を叶えられなかったことを虚しく思うばかりでなく、70代という「時」を外さずに、70代の「今」何をやるか。そのことをしっかり考えたいと思いました。