以上のような苦労を避けるには、飛行機のチケット、パスポート、ビザなどすべての公的書類を結婚姓(戸籍名)で統一すればよかったのだろう。けれども、これまで旧姓で積み上げてきたキャリアのひとつの証としての駐在員ビザに、プロフェッショナルなアイデンティティとしての自分の旧姓を使いたいと望むことは、至極まっとうな欲求ではないだろうか。

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それに、公的書類を戸籍名で統一したとて、勤務先やクライアントが飛行機のチケットやイベントの招待状などを旧姓で用意してしまう場合も多々ある。

働く既婚女性の多くが旧姓を使用していることを踏まえると、旧姓併記が生むこのような労力は、ただただ非生産的で非合理的だ。

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国に届かない、当事者の声

森田さんは現在、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の長野県メンバーが結成した「選択的夫婦別姓・陳情アクション信州」の一員として積極的に運動をしている。この市民団体は、政治活動とは縁のない、ツイッターを通して出会った素人集団で、どんな政党・会派もバックグランドにもたない。ミッションは、選択的夫婦別姓制度導入のために動く国会議員を一人でも多く増やし、様々なイベントや勉強会を通して選択的夫婦別姓への理解を深め、全国の自治体議会へ陳情書を送ること。

彼らの働きかけによる陳情件数はこれまでで61件にも及び(2020年10月22日)、「選択的夫婦別姓・陳情アクション信州」が今年の9月に提出した意見書が森田さんの出身地、長野県上田市で全会一致で可決された。これは長野県初だという。

最後に森田さんは次のように訴える。

「2015年に、夫婦同姓を強制する民法750条が憲法に違反するとして男女5人が国に損害賠償を求めた訴訟は敗訴になりました。裁判官15人のうち5人は違憲と判断したのに、残りの10人が合憲としたからです。

そして、今年の2月にはソフトウエア開発会社サイボウズの青野慶久社長が起こした訴訟も東京高裁で棄却されました。これまで全国の自治体議会から国会へ送られた陳情書は150通を超えます。国会はもっと真摯に当事者の声を受け取ってほしいです