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「クララ」が歩けるようになったのはなぜ?慢性痛の専門医が謎を解いた

「痛み」の陰にあるもの

“奇跡”ではなかった

足が不自由で、幼いころから車椅子生活を余儀なくされていた深窓の令嬢・クララが立ち上がり、両側を支えられながらも歩けるようになるシーンは、アニメでも人気の児童文学『アルプスの少女ハイジ』における最大の見せ場だ。この感動的な場面は、ハイジの友情とアルプスの雄大な自然がもたらした奇跡と捉えてきた読者は多いだろう。

だが原作を丹念に読み返すと、それは決して奇跡ではなく、現代医学によって説明がつく「集学的痛み治療」の賜物であることが分かる。

そんなクララの謎を解き明かす短編動画がこの度、慢性痛の名医として知られる北原雅樹医師(横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科)の指示・監修のもと完成した。動画はYouTubeで配信されており、誰でも視聴することができる。

 

北原医師は、動画制作の動機をこう語る。

「日本は医療先進国ですが、慢性痛医療にかんしては欧米諸国より20年遅れていると言われています。というのも、痛みに対する正しい知識が普及していないからです。一般の方はおろか医師でさえ、慢性痛と急性痛の違いが分かっていない。日本の医学部では、痛みに関する専門教育がなされていないのです。

そのため、2000万人以上とされる日本の慢性痛患者は、正しい治療が受けられないまま痛みに耐えており、寝たきりになっている人も大勢います。慢性痛による経済的損失は年間およそ1兆9千億円(20兆円とする説もある)と試算されています。

そこで、慢性痛に対する正しい知識の普及と、正しい治療のあり方即ち集学的痛み治療について広く知ってもらうために、動画とホームページを制作しました。できるだけ大勢の方に視聴していただきたいし、医師や福祉関係者、行政の皆さんの勉強会等に活用していただきたいと思っています」

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集学的治療とは、従来の薬物療法、神経ブロック療法、手術など、一般的に行われてきた治療法では改善しない慢性痛(難治性慢性痛)に対して、患者を心理的・社会的な面も含めて全人的に診て、医師、公認心理士、理学療法士、鍼灸師、栄養士等々さまざまな医療専門職がチームを組み、多方面からアプローチする治療法(生物心理社会モデルにもとづく集学的治療法)だ。その有効性は国際的にも認められている。

物語の中でクララは、主治医の指示で、山を訪れる前に麓の温泉で6週間もの療養生活を送っている。食が細く、青白い顔をした少女だったが、山に来てからは食欲が増し、食卓に出されたチーズやパンを残さずもりもり食べるようになったおかげで体重が増え、頬も少女らしいバラ色になった。しかも、おじいさんは元軍人で負傷した兵士の介護をした経験があり、クララの祖母に対して「私の力でなんとかあの娘を歩けるようにしてやりたい」と、リハビリを施すことを暗示させる約束をしている。車椅子に乗ったままとはいえ、毎日山道を羊の放牧場まで移動したこともよい運動になった。

そうした環境の中でクララも「自分の足で歩けるようになりたい」という強い意志を持つようになり、自発的に努力を始め、ついに歩けるようになったというわけだ。車椅子が破壊され、依存できなくなったこともきっけになったと、動画に登場する未来の医師・ドクターペインは語っている。

まさに集学的治療がなされたのである。