世界一周旅の様子を綴ったベストセラーエッセイ『ブラを捨て旅に出よう』の著者である旅作家・歩りえこさんによるFRaU web連載「世界94カ国で出会った男たち」。毎月2回、各地で出会った印象深い男性とのエピソードをお伝えしています。

今回は、トルコのイスタンブールで利用した格安で泊まれる宿の主人について。親日家で明るくノリのいい人だと思っていたら、ありえない言動をする人だったのです。

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綺麗で清潔感のある部屋だが
普通じゃない雰囲気の女性が同室に

東洋でも西洋でもない国トルコ。中東という位置づけだが、ヨーロッパ・アジア・中東の文化が交わったエキゾチックな国だ。トルコといえば、伸びるトルコアイス、ベリーダンス、トルコ絨毯……そして親日家

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そんなエキゾチックなトルコの大都市イスタンブールに到着すると、まず安宿を探すことにした。ガイドブックに載っていた安宿を訪ねてみると、30代前半と思われる宿の主人がフロントで出迎えてくれた。

「メルハバ!(トルコ語で「こんにちは」)日本人?はるばるよくトルコに来てくれたね」と満面の笑みでいきなりのハグ。その瞬間に強烈な体臭が鼻を突き、思わず身体をのけ反らせた。敬虔なムスリムの国でハグはご法度の行為だが、トルコは外国人旅行者が多いことから欧米ノリの人が多いのかもしれない。

日本みたいにお風呂に毎日浸かる文化のないトルコには「ハマム」というムスリム圏特有の公共浴場があるが、女性と比べて男性はそんなに頻繁にハマムに行かない。この宿の主人もあまり身体を洗っていないのか、或いは元々の体質なのか息を止めたくなるほどの体臭だった。

僕はアスラン(仮名)。よろしくね」アスランはすぐさま私のバックパックを持つと部屋へと案内してくれた。まだ泊まることを決めていないが、決める前に部屋をまず見てみるのは宿決めの鉄則だ。

案内された部屋は簡素だがベッドシーツも綺麗で清潔感があった。アスランの体臭はキツいけど、安宿にしては綺麗だな。重いバックパックを背負って他の宿を探すのはもう面倒だし、ここに決めようかな……。

部屋にはパイプ式のベッドが並んでおり、一人だけ欧米人らしき金髪の若い女性がいた。「ハロー」と軽く会釈すると……物凄い形相で眼を血走らせながらその女性は私を睨みつけた。……生理前で機嫌が悪いのだろうか? それとも何か嫌なことでもあったのだろうか? ちょっと普通じゃない殺気だった顔つきだ。

得体の知れない恐ろしさを感じて部屋のドアを静かに閉めると、アスランは申し訳なさそうに言った。「ちょっとあのフランス人の女の子は問題があってね。最近イラクに一人で行って来たらしく、何かにとても怯えたようにずっと引きこもってるんだ。殆ど眠らず、喋らずにずっと眼を血走らせては何かに怯えているんだ。怯えてるだけで害はないから気にしないでね。病院に行ったほうがいいと伝えてはいるんだけど、どこにも外出しようとしないんだよ」

カッパドキアの雄大な景観。写真提供/歩りえこ