「蝶館カビラ」に展示されていた毒蝶「オオゴマダラ」

【自然の不思議】毒のある蝶はのんびり優雅に飛ぶって知ってた?

南の島で教えてもらった蝶の面白生態

子孫を多く残すための三つの戦略

博物館と聞けば、国や地方自治体の大きなハコを思い浮かべる人が多いのでは。だが、そもそもは16世紀のヨーロッパの貴族や医師たちがコレクションを並べた「驚異の部屋(ヴンダーカマー)」が原点だった。かの大英博物館も、母体になったのは医師にして商才に恵まれたハンス・スローンという個人のコレクションである。

 

コレクターにとってコレクションを見てもらえるのは大きなヨロコビだ。ぼくは常々、博物館経営は男の夢のひとつだと思っている(あと不動産経営も)。そんな男の夢を実現した例という意味でも、今回は石垣島にあった「蝶館カビラ」を紹介してみたい。ただし、「蝶館カビラ」は目下、沖縄本島での再開に向けて休館中で、石垣島の施設はもうないことを先にお断りしておく。

石垣島の中心地から海沿いを走って20 分ほど。海が見える斜面の中腹に建つ蝶館カビラは想像以上に立派だった。自宅の2階に設けた展示室もさることながら、隣に小さな家一軒ほどの大きさの温室もある。中には木が繁っていた。きっと蝶を飼っているんだろう。

石垣島川平湾を望む高台に建っていた「蝶館カビラ」

まずは2階の展示室へ行ってみると、ご主人の入野祐史さんがいた。入野さんは2003年の4月に脱サラをして石垣島に移り住み、1年後に「蝶館カビラ」をオープンした。蝶が好きで沖縄に移住して、博物館を作るなんてよっぽど気合が入っているんだろうと思いきや、意外にもとても温厚な方だった。さっそく展示を解説してもらう。

「蝶館カビラ」館長の入野祐史さん。現在は沖縄本島での再開に向けて準備中。

部屋の壁一面に整列した蝶の標本はおよそ200種3000頭。黒、白、赤、黄、緑……カラフルな蝶が整列していると、“集合美”とでも言えばいいのだろうか、幾何学模様のようにも見える。蝶館カビラには他の昆虫もいて、クワガタなどの蝶以外の昆虫も含めた400種5000頭の標本がすべて自作はさすが!

館内には、貴重な標本がびっしりと並んでいた

日本にいる蝶は約250種類。そのうち、石垣島には4割の100種ほどが生息し、生態がわかりやすい蝶が多いのだという。

「いかに子孫を多く残しつつ、より長く生き残るかということが生物の本能ですが、そのための工夫が蝶にも当然備わっていて、大きく分けると三つのタイプがあります。ひとつは毒を持つこと。いわゆる毒蝶です」

まずそう言って、入野さんはマダラチョウ科のコーナーを指した。白くて大きなオオゴマダラ、アサギマダラ、オレンジ色のカバマダラにスジグロカバマダラなど、名前の末尾に「マダラ」と付いている種類はたいてい毒蝶だという。

オオゴマダラの標本。沖縄県の県蝶であり、那覇市、宮古島市、石垣市の市の蝶にも指定されている

「鳥に食べられないように体に毒を持っています。鳥は一度食べるんですが、具合が悪くなって吐き出してしまう。そうやって学習をして、二度と食べなくなります」

「毒蝶の見た目に共通点はあるんですか?」

「それはありません。見た目はそれぞれ違いますが、『自分は毒蝶だぞ。他と間違えるなよ』というように、どれもゆっくり飛びます。だから、よく観察できますよ。石垣島にはマダラチョウの仲間がたくさんいて、いつも私は『島の雰囲気に合わせてのんびり飛んでいるのが毒蝶ですよ』と説明しています」

蝶の毒はたいてい幼虫時代に食べた植物の成分によるという。その意味ではフグと同じやり方だ。

「二つめは小型化です。目立たないようになるべく小さくなる。蝶だけじゃなくて、昆虫にはやたらに小さいものがいて、そういう種は集団化します。イワシの類と同じかもしれません。多少食べられても子孫は残っていくという」

続いて、入野さんが示したのはシジミチョウだった。シジミは「小灰」と書くように、蝶のなかでは小型のグループで、ヤマトシジミやホリイコシジミなどは羽根が一センチぐらいしかない。蚊みたいな大きさだ。

かわいらしいサイズのタイワンヒメシジミ
こちらも小さなムラサキシジミ