釜石から世界へ! ラグビー女子日本代表・平野恵里子選手の挑戦

2021W杯での活躍を目指して

W杯のためにもっと強くなれるところへ行きたい

2020年9月12日。厚木市荻野運動公園陸上競技場には雨が降っていた。

スタンドの屋根の下には、観客が距離をあけて座っている。

その日行われていたのは「ウィメンズ・キャピタル・セブンズ」という大会だった。女子7人制ラグビーの国内トップチームが戦う「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」への昇格を狙う第2グループのクラブが、強くなるために、自分たちで前年に設立した大会だ。新型コロナウィルス感染拡大に伴い、日本ラグビー協会が主催する大会が次々に中止・延期される中、この大会は、主催者が入念な感染防止策を施した上で実施された。

 

その大会に、ゲストチームとして参加していたのが、国内トップチームのひとつ、横浜TKMだった。メンバーは、この春まで高校生や大学生だった若手が多く起用されたが、このカテゴリーでは実力は段違いだ。神奈川で活動する湘南ベルセブンを31-5、東京で活動する世田谷レディースを49-0、そして東芝の妹クラブ、ブレイブルーヴを27-12。3戦全勝で優勝を決めた。

圧巻は、優勝をかけて2戦2勝同士が対決したブレイブルーヴ戦のラストプレーだった。途中出場で入ったばかりのTKMのエース、2017年女子ワールドカップ日本代表のウイング平野恵里子は、スクラムから出たボールを捕ると、相手ディフェンスのわずかな凸凹を見つけると滑らかなコースチェンジでそのギャップに走り込み、一直線にゴールポスト真下へと走り抜けた。

平野恵里子選手。釜石鵜住居復興スタジアムにて

黄色いジャージーを着たチームメイトが祝福に駆け寄る中を、恵里子は淡々と自陣へ向かって戻っていく。それはトライを決めた後の恵里子のルーティーンだった。派手なガッツポーズは無縁。日本代表でトライをあげたときも、日体大時代の全国大会決勝で劇的逆転サヨナラトライをあげたときも、喜びはあくまでも控えめだった。

そして表彰式。優勝の賞状を受け取り、記念写真に収まると、TKMのメンバーは恵里子を取り囲み、胴上げが始まった。1回、2回、3回……恵里子の体が宙を舞った。恵里子はその間、感情を抑えるように、両手で顔を覆っていた。

胴上げされて、チームメイトたちからたくさんの声をかけられて、ベンチに引き上げてきた恵里子に、この胴上げの意味は? と聞いた。恵里子は答えた。

「今日がTKMで最後の試合なんです」

え? と問い返した記者に、恵里子は続けた。

「外国にチャレンジすることにしたんです」

横浜TKMでのラストゲーム。惜別のトライは圧巻の加速だった
横浜TKMでのラストゲームを終え胴上げされる恵里子

TKMのエースとして5年間にわたり活躍し、トライの山を築いてきた日本代表ウイングは、静かな声で言った。

「来年のワールドカップには絶対に出て活躍したい。そのためには自分がもっと強くならないといけない。そのために、強くなれるところへ行きたい。環境を変えないといけない」

静かな口調と小さな声。だがそこには断固とした、揺るがない決意が窺えた。

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