エンタメに触れるときは、現実逃避してほしい

未来を担う有望な若者――。彼との対話は、この暗いコロナ禍にも、まだまだたくさんの光が射すような、そんな予感を抱かせてくれる。でも、瀬戸さん自身は、未来のことはあまり考えないほうらしい。

「だって、何が起こるか分からないじゃないですか。役者なんて、いつ、仕事がこなくなるか分からないバクチみたいな世界ですし(笑)。だから、続けていられれば幸せかな。60になっても70になっても続けられたらいいな。それはずっと思っています。
作品や役は巡り合わせなので。『この演出家とやりたい』とか『この人と共演したい』というイメージはそんなに持たないようにしています。あとは、なるべくなら、自分が演じている姿があんまり想像できない役を優先させたい思いはあるかな。自分の中に、ある程度の壁というか、超えるべきものを作っておきたいので」

撮影/山本倫子

超のつく小顔に、整った目鼻立ち。童顔なのに、声はなかなか渋い低音。表面的な部分でも、いろんなギャップを持つ彼は、内面にも、ピュアな矛盾をはらんでいる。役を演じるときは、毎回壁を乗り越えようと奮闘しているはずなのに、「でも、それも無理してやることではないと思いますけど」とサラッと呟いた。

「どんな仕事もそうだけど、頑張りすぎてしんどくなったり、自分が壊れそうになったりしたときは、休むなり、やめるなりした方がいいと僕は思います。僕がこの仕事を続けられているのは、シンプルに好きだし、楽しいから。あとは、芝居を通して、いろんないい人たちと巡り合えている。そういう意味では恵まれているし、ものすごく幸せな人間だと思います」

これも見た目からくる勝手なイメージだったのかもしれない。「繊細なんじゃ?」とか、「ストイックなんじゃ?」とか。たぶん、そんな葛藤は当たり前に経験し、今の彼は、「今自分にできること」に、彼らしいエネルギーで、誠実にまっすぐに取り組んでいる。
エンタメに触れるときは、できることなら現実逃避してほしい」と彼は言った。

「テレビとかドラマとか、映画でもなんでもいいんだけど、お客さんが感じている、どこにぶつけていいのかわからない、モヤモヤとか怒りを、作品を見ることによって、少しの時間でも忘れられたり。僕は、エンタメって、そういうものであればいいなって思うんです。『23階の笑い』は会話劇なので、たぶん毎回、頭の中をフル回転させて、必死で目の前の相手とやり取りすることになると思います。それって、ステージに立っている全員が、一つの作品に夢中になっている場所で、お客さんも、そこで想像力を膨らませることができる。巨大な非日常空間だと思うんです。だから、現実逃避にはもってこいです! タイトルに“笑い”って入っているからには、笑いもいっぱい起きるだろうし。人って、笑ってるときは無心ですもんね」

『23階の笑い』

23階の笑い
アメリカが誇る20世紀最大の喜劇作家ニール・サイモンは、2018年に91歳でこの世を去ってからもなお、長く愛されている喜劇界の巨星である。1993年ブロードウェイ初演、96年には英国ウエスト・エンドで上演された『23階の笑い』を、彼を敬愛する三谷幸喜が演出。
時は、マッカーシズムに揺れる1953年。社会は混迷する政治や人種差別など、様々な問題に溢れていたが、テレビ業界は熾烈な視聴率競争の真っ只中。闘いの中心は、生放送のバラエティショーだった。ニューヨークの五番街と六番街の間にある高層ビル23階の一室で、冠番組「ザ・マックス・プリンス・ショー」を持つ人気コメディアン、マックス・プリンス(小手伸也)と新入りライター・ルーカス(瀬戸康史)、そしてマックスの才能を愛し、彼のためにコントを書き、彼に認められたいと願う個性的な放送作家は、連日コント作りに没頭していた。ところが、大衆受けを望むテレビ局は、政治的な話題まで番組に織り込むマックスたちのやり方が気に入らず。厳しい要求を突きつけてきた――。

出演:瀬戸康史、松岡茉優、吉原光夫、小手伸也、鈴木浩介、梶原善、青木さやか、山崎一、浅野和之
作:ニール・サイモン
翻訳:徐賀世子
演出・上演台本:三谷幸喜

公演期間:12月5日(土)〜27日(日) 
会場:世田谷パブリックシアター
http://www.siscompany.com/23f/gai.html
11月22日(日)よりチケット発売開始

スタイリスト 田村和之 ヘアメイク 小林純子

ジャケット:62000円 パンツ:39000円 ともにETHOSENS(エトセンス)
問い合わせ先:エトセンス オブ ホワイトソース 03-6809-0470
その他スタイリスト私物