2016年4月22日、パリ協定の国連署名式に臨んだジョン・ケリー国務長官。ケリーはバイデン米国新政権で新設される気候変動問題の大統領特使に指名された。Photo by gettyimages
2020.12.04

アップル、ナイキ…巨大企業を気候変動対策へと動かした「ある理由」

今度こそ日本にESG思考は根付くか3

菅首相の「2050年までに温室効果ガスの排出ゼロ」宣言。しかし世界はずっと先に行っている。温暖化対策への取り組みがすぐれる企業へマネーを配分するESG(環境・社会・企業統治)投資は、いまや世界の機関投資家のあいだでは当たり前だ。
バイデン米国新政権の誕生で、ますます世界は脱炭素社会へ加速するだろう。首相のカーボンニュートラル宣言を、産業界はどのように個々の中長期計画に組み込んでいくのだろうか。ESGに詳しい夫馬賢治氏の著書『ESG思考』から、脱炭素社会の新しい経済に移行するために、いま私たちが知っておくべき必須の基本事項をご紹介する。今回はその第三回目だ。

異常気象に損害保険会社は耐えられるのか?

欧米と日本の企業でまったく逆の道を歩んでいたタイミングで、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年に気候第5次評価報告書を発表する。今回の報告書は、7年前に発表された第4次報告書と比べ、現状分析と予測の精度がさらに上がった。気候変動の原因が人間社会の二酸化炭素排出量であるとする確率は、第4次報告書の90%以上から、第5次報告書では95%以上にまで上昇し、ほぼ揺るぎないものとなる。そして、将来の8大リスクとして次のように列挙した。

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•高潮、沿岸域の氾濫および海面水位上昇による、沿岸の低地並びに小島嶼開発途上国およびその他の小島嶼における死亡、負傷、健康障害、生計崩壊のリスク
•いくつかの地域における内陸洪水による大都市住民の深刻な健康障害や生計崩壊のリスク
•極端な気象現象が、電気、水供給並びに保健および緊急サービスのようなインフラ網や重要なサービスの機能停止をもたらすことによるシステムのリスク
•特に脆弱な都市住民および都市域又は農村域の屋外労働者についての、極端な暑熱期間における死亡および罹病のリスク
•特に都市および農村におけるより貧しい住民にとっての、温暖化、干魃、洪水、降水の変動および極端現象に伴う食料不足や食料システム崩壊のリスク
•特に半乾燥地域において最小限の資本しか持たない農民や牧畜民にとっての、飲料水および灌漑用水の不十分な利用可能性、並びに農業生産性の低下によって農村の生計や収入を損失するリスク
•特に熱帯と北極圏の漁業コミュニティにおいて、沿岸部の人々の生計を支える、海洋・沿岸生態系と生物多様性、生態系の財・機能・サービスが失われるリスク
•人々の生計を支える陸域および内水の生態系と生物多様性、生態系の財・機能・サービスが失われるリスク

ここで指摘された8大リスクは、発展途上国や農村に関するものが多い。しかし経済がグローバル化している時代には、先進国の経済や生活は、発展途上国で収穫される農作物・魚介類や労働に大きく依存している。そのため、世界のどこかで異変があれば、それが回り回って世界中に影響が及んでしまう。

世界中で事業を展開しているグローバル企業は、特にその影響を受けることになる。自分たちが原材料を調達しているインドの茶葉農園は大丈夫なのか。自分たちがコーヒーを調達しているエチオピアでは将来どのような異常気象が起こるのか。フィリピンのエビ養殖場は洪水被害にあわないのか。沿岸部にある発電所は海面上昇で浸水しないか。巨大なハリケーンに損害保険会社は耐えられるのか。自分たちが投融資している企業は本当に将来性があるのか。こうした不安が自分ごととして頭から離れなくなる。