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2人の子供を残して亡くなった、母親の霊の無念

津波が生んだ霊体験⑫
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」されたことのある高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、前回に続いて高村さんの体験を聞く。

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中年女性の霊

「英ちゃん、次いけるか? それとも少し休むか?」

 金田住職は、高村さんに気遣うように言った

「大丈夫です」と高村さんは笑顔で返す。「今日は次の人で最後です。結構泣き叫んでいるので、また溺死からスタートだと思います」

「それにしても英ちゃん、みんな(亡くなった人)さ、どうして仮設住宅に行かないんだろうな?」

「そうですね。なぜか仮設には行けないみたいです」

「そうか……」

不可解そうに言った。金田住職でも分からないことはあるのだろう。

本堂に行くと、高村さんは金田さんの合図で憑いていた霊を体に入れる。「入れる」と簡単に書いたが、これが今もってイメージできない。「フタを開ける感じ」と言われたこともあるが、それも理解できなかった。仕方がないから、人間の体にはあちこち穴があるから、そこから侵入するのだろうと勝手に解釈してみた。

金田諦應住職

侵入してきたのは、40代か50代の中年女性だ

この時分になると、高村さんは自分の体が乗っ取られることにも慣れてきたせいか、まるでそれがルーティンのように手早く霊を受け容れるようになっていた。「レイプされるより、こちらからレイプさせたほうが早い。これじゃ魂の性風俗店みたいね。お金が取れないからブラックすぎるけど」なんて自虐的に言ったが、その言い草があまりにもあっけらかんとしていたので、つい笑ってしまった。

溺死の追体験中は、住職と住職夫人が交互に高村さんの背中をさすりながら、「大丈夫か?」「すぐに楽になるからね」などと声をかけてくれているのが、苦しそうな高村さんの耳にもぼんやりとだが聞こえていた。

やがて追体験が終わると、高村さんの肉体から魂が遊離する

溺死の恐怖や苦しみは変わらないけれども、さすがに何度も経験したので、パニックを起こしたり朦朧とした状態になることもなく、すぐに意識を取り戻した。

金田住職は憑依した女性に話しかける。

「大丈夫ですか。ここがどこか分かりますか?」

女性は「分からない」と言いかけたが、すぐに「ゲボゲボ!」と海水を吐きながら顔を歪めた。浜辺に打ち上げられたのだろうか、全身がびしょ濡れの状態で、髪の毛には海藻のようなものがへばりついていた。

落ち着くと、「分からない、分からない!」と狂乱したように叫んだ。

「自分が亡くなったことは分かりますか?」

女性は自分の死を理解しているようだが、ただ「うう……」と泣くばかりだった。

「あなたは亡くなったんですよ。分かりますね?」

「わあーーーー!」

地面を叩きつけながら、天に向かって号泣する。