2020.11.21
# 本

「なんでこんなに政治の世界が酷いんだろう」…この国で“痛みを抱えて生きる”ということ

上間陽子さんインタビュー
山本 ぽてと プロフィール

先回りして奪うようなことはできない

「こんなに眠れないの、昔のこととか関係あると思う?」と尋ねてみると、「あると思います」と七海は言った。「病院、行ってみる?」と私が言うと、「話すくらいで変わるんですかね? それにひとに話すのできないんですよ、病院でもどうせ話せないと思います」と、七海はきっぱり言い切って押し黙る。仕方がないので私は治療の話を封印する。
(『海をあげる』所収「何も響かない」より引用)

――上間さんは、沖縄をフィールドにして、夜の街で働く女性たちや、若くして出産する女性の聞き取り調査を続けていますよね。「何も響かない」では、その中で出会った17歳の若い母親・七海が出てきます。

上間:私はいつも、自分が書いたものについては、その本人の前で読んで聞かせる「読み合わせ」をしています。七海さんと読み合わせをしたときに、彼女は珍しく泣いていました。「これは他の人に読んでもらえるんですか?」「この原稿を記念として持って帰ってもいいですか」と言ってくれて、やっぱり嬉しいんだと驚きました。

当時、彼女は大変な時期でした。抜け出す方法が本人にもわからないし、このままだと酷い目にあってしまうという怯えが私にもあって。

私は大人なので、どういう支援を使えるのかは分かっています。七海さんにも、こうしたほうがいいと思う方法を伝えました。でも最終的には、私が言ったようにはしない。自分のやりたいようにしかやらない。七海さんだけではなく、女の子みんなね。

いま「若年出産女性にみる沖縄の貧困の再生産過程」について調査をしています。そこで分かったのは、困難層の中でも、お金は少ないけれども親がしっかり働いていてルーティンがはっきりしている子と、暴力やいろんなことでルーティンがつくれなかった子がいる。

後者の子たちはが「博打」を打つんです。私からみると、ちょっとこの選択はないな、危ないなと思うんだけど。話をすると、「でも、頑張る!」と決意表明をする。ここで私が、暴力回避や最短の方法を指南して無理矢理動かしても、そっちをやりたかった欲望は残るし、その先に同じことがおきてしまうんです。

 

――危ないことが分かっていても、止められないのはもどかしいですね。

上間:でも私が伝えられるのは、あくまでも制度的な中での最良です。本人たちにとってみれば、生活に地続きの中の最良があります。最終的にはこの子の体験だから、先回りして奪うようなことはできないなと思うようになりました。殴られるようなことも含めて。

だから私は、これがいいよと提案するときに、「自分はこうしたい」と反論の余地をこの子が言えるようにする。きちんと自分の願いを言葉に出して、主体化することのほうが先だと思っています。ただ、「私は殴られて欲しくない」とは伝えます。そうして境界線を引いている方が、会い続けられるような気がしています。手探りですけど。

私は、調査として関わってきて、大量のトランススクリプト(インタビューの記録)も取り続けている。これを機に、あなたとの出会いがどうだったのか、あなたの今の状況はどのようなものなのか、書くことはできると思っています。

七海さんについて書いた原稿を発表したときは、柴山さんにお話しして、ふだんの連載の更新日時を変えてもらい、彼女が成人して施設から出る日にしてもらいました。彼女にはすごい大変なことも、酷いことも起こった。でも一区切りのような日だったので、長い人生では意味を持つ日になることもあるかもしれない。そんな思いで変えてもらいました。

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