焼き栗の屋台と並ぶ全国コロナ検査のブース。 *画像はすべて筆者提供
# 新型コロナウイルス

「第二次世界大戦以来、最大の危機」 中欧の小国スロヴァキアを襲った「コロナ第二波」の衝撃

スロヴァキアは東北地方から福島県を除いたくらいの面積に、兵庫県の人口に近い550万人が暮らす中欧の小さな国である。日本での認知度は高いとは言えず、1989年に社会主義体制が崩壊してまもなくチェコと分離して30年が過ぎたいまなお、「チェコスロヴァキア」と言ってはじめてわかってもらえることがある。

国土の4割近くを農地が占める農業国だが、 人口1人あたりの生産量世界第1位に位置づけられるほど自動車産業が盛んで、フォルクスワーゲン、ポルシェ、アウディ、プジョー、シトロエン、ランドローバー、起亜の製造工場がある。当初は安価な労働力を求めての進出だったが、ていねいな仕事ぶりが認められ、意外な高級車の生産ラインを設けるメーカーもある。

2020年のパンデミックはこの小さな国をも容赦なく巻き込み、翻弄してきた。春の第一波はほとんど無傷で乗り越えたものの、夏休みに規制を緩めたのが一因し、9月にはじまる第二波では感染者が急増する。

経済損失の大きいロックダウンが迫られるなか、世界初となる国を挙げての一斉コロナ検査をおこない、収束をはかろうとしている。首都ブラチスラヴァに暮らす一市民の目線から、スロヴァキアのコロナ対策を2回に分けてルポする。

 

非常事態宣言の発令

バスに乗るアニメのキャラクターの顔に、スロヴァキアの国旗をコラージュした一枚の戯画がSNSに出回ったのは3月6日のことだった。地図が組み合わされ、国境を接するチェコ、オーストリア、ハンガリー、ウクライナ、ポーランドに赤字で大きく「コロナ」と記され、「私の身が危ない」との台詞が添えられた。

事実、周辺国で感染が広がっても、スロヴァキアでは感染者が不思議と出なかった。理由をめぐり、プラハやウィーンとちがって見所がないから観光客があまり来ないとか、強いスピリッツを飲んでいるから消毒済みだなどと冗談を言い合った。

皮肉なことにその日のうちに、ブラチスラヴァの住人から一人目の感染者が出た。52歳の男性で、子どもがイタリアに行っていた。すぐさま市当局は市民の命と暮らしを守り、状況は正しく伝えるとの声明を発表する。以来、行政がSNSを通じて発信する情報は的確かつ簡潔で、外国人である私でも逐一状況を正確に把握できた。

それからの動きは迅速だった。3月いっぱい、街は事実上、封鎖され、学校が休みになった。公共交通機関は車両も停留所も防護服を着た人たちに消毒された。確定申告の時期に役所は電話のみの対応になるが、去年から申請が全面的に電子化されたのでとくに影響はなかった。

3月11日に世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言したのに合わせ、スロヴァキアは憲法にもとづく非常事態宣言を発令する。目的は公衆の健康を危険にさらす事態の防止および軽減のため、必要な措置を講じること。慌ただしく国境が封鎖され、越境する列車やバス、飛行機がすべて運行を取りやめた。

緊急事態宣言下のブラチスラヴァ旧市街。

この国にはマスクの習慣がまったくといっていいほどない。それにもかかわらず、非常事態宣言が出た日、マスクをしている人をスーパーで見かけ、驚かされた。しかも工具店で粉塵防止用として売られる、フィルター付きのいかついマスクだ。

警察は「恥ずかしがらないで」とマスクの着用を呼びかけ、大統領のズザナ・チャプトヴァー(47歳)はマスクと服の色をコーディネイトするなど、お洒落に着こなす見本を示した。

当初はどこにも売っていなかったので、学生らがボランティアで布製のマスクをつくっては近隣に配った。私の住む地区では1万世帯に2枚のマスクが、毎月の区報とともになんの予告もなく配布された。ひとつは手づくりの布製、もうひとつはスロヴァキアの会社が開発したというフィルターを使ったサージカルマスクだった。地区の予算で用意され、1セット4.84ユーロ(1ユーロ=124円、2020年11月11日現在)との会計報告が区報に載っていた。