Islet of Langerhans Photo by Islet of Langerhans

「奇跡」は99年前の今日、始まった!町の外科医が見つけた「糖尿病」の画期的治療法

サイエンス365days

"サイエンス365days" は、あの科学者が生まれた、あの現象が発見された、など科学に関する歴史的な出来事を紹介するコーナーです。

画期的な治療の始まり

1922年の今日(1月11日)、カナダ人外科医のフレデリック・バンディング(Frederick Grant Banting、1891-1941)によって、ヒトの糖尿病患者にインスリンが初めて投与されました。

フレデリック・バンディング Photo by Getty Images

インスリンとは、ヒトのすい臓にあるランゲルハンス島という組織に含まれるベータ細胞で作られるホルモンです。食後などに血糖値が上がると、すい臓はインスリンを分泌します。すると、インスリンと結合した細胞が血液中のブドウ糖をエネルギーとして消費するようになります。

さらに、インスリンは余ったブドウ糖からグリコーゲンや中性脂肪を合成するのを促進するはたらきも持っています。このインスリンのはたらきにより、ブドウ糖を含む食品を過剰に摂取しても、血糖値が上がりすぎないようになっているのです。逆に、インスリンが十分に分泌されなかったり、効能が低かったりすると、糖尿病になります。

 

しかし、20世紀初めごろまでは、そういったインスリンのはたらきは明らかになっていませんでした。それまでに、糖尿病がすい臓と関係していることはわかっていましたが、それ以上のことは解明されていなかったのです。そこで、バンディングは犬のすい臓を用いた研究に取り組むことを決意しました。

バンディングとマクラウド

一介の開業医にすぎなかったバンディングは、自らの研究室を持っていませんでした。そこで、実験の概要と意義をトロント大学教授のジョン・マクラウド(John James Richard Macleod、1876-1935)に説明し、彼の研究室を貸してもらいます。

そして、マクラウドの助手だったチャールズ・ベスト(Charles Herbert Best、1899-1978)とともに実験をはじめました。当初はすい臓を移植する実験を予定していましたが、これをすい臓の抽出物を投与する実験に変更します。すると、犬の血糖値を降下させる抽出物の発見に成功したのです。

彼らが当時「アイレチン」と呼んでいたインスリンの投与により70日以上生き延びた、犬のマージョリー君 Photo by Getty Images

これが1921年7月30日の出来事でした。そして、翌年にはいよいよヒトの患者への投与を試みます。すると、初めて投与された14歳のレナード・トンプソン君をはじめ、ことごとく良好な結果を得たのです。このインスリンによる糖尿病治療の成功は「トロントの奇跡」とも呼ばれています。

この発見によってバンディングと、「インスリン」を命名し研究結果を発表したマクラウドが翌年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。ノーベル賞としては異例の早さでの受賞といえます。しかし、ベストが受賞しなかったこと、マクラウドは実験には携わっていなかったことなどから、2人の仲は険悪になりました。現在では、部屋を貸してノーベル賞を受賞した人物としてマクラウドが語られることもあります。