インフルエンザワクチンと「ワクチンで自閉症」問題の正体

反ワクチン運動とはなんだったのか

ワクチンの過信と不信の歴史

新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行を避けようと、例年以上にインフルエンザワクチンを求める人が殺到し、ワクチンの供給不足が見込まれている。その傍ら、ワクチンに不信感を示す人は例年のように見つかる。例年と違うのは、「反ワクチン」に対してはるかにヒステリックな非難が浴びせられることだ。

たしかにワクチンには大きな実績がある。いまあるワクチンはどれも長い歴史を経て改良されてきたもので、安全性も高い。ワクチンを拒否することは理にかなっていないのかもしれない。

だが、愚かと切って捨てても、考えを変えさせることはできない。

この記事は前後篇で、ワクチンを信じる考えと、ワクチンを怖がる考えのあいだに、なぜこんなに深い溝ができ、ますます広がっているのかを考察している。前篇では、初期のワクチンがつねに重い副作用とともにあったこと、ワクチンはときに先走った期待とそれによる害をもたらしたことを取り上げた。

後篇にあたる今回は、インフルエンザワクチンの過信と不信、そしてMMRワクチンの不信を題材に、ワクチン不信の背景に目を向ける。

1918年パンデミックで活躍したワクチン

世界で数千万人の命を奪ったとされる、1918年のインフルエンザによるパンデミックでも、人はワクチンに解決を求めた。

1918年のパンデミックの際の臨時病棟の様子 Oakland, California, 1918 Photo by Underwood Archives/Getty Images

当時はウイルスという概念もなく、たまたまインフルエンザの患者から見つかった細菌がインフルエンザの原因と信じられていた時代で、有効なワクチンなどできるはずもなかったのだが、「インフルエンザワクチン」は自信満々に供給された。

サンフランシスコ市長ジェームス・ロルフは(…)大量のワクチンの発送を依頼した(…)その量は、必要とされる1人あたり3回の接種をおこなうとして1万7000人分に相当する量だった(…)手紙には、「このワクチンはインフルエンザを未然に防ぎ、ごく少数の割合で見られる例外を除き、すべての患者を肺炎から守り、完璧といっていいほどインフルエンザの死亡率を落としてくれるはずです」とあった。(アルフレッド・W・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ』西村秀一訳、130-131ページ)

日本で山内保らがインフルエンザの病原体は細菌を濾過したあとの液体に含まれることを確かめて『Lancet』に報告したのはこれよりあとのことだ。