私は“縁”がすべてだと思ってる

インタビュー原稿を書くときはいつも、自分が対峙して感じた相手の“人間っぽさ”を、少しでも豊かに描写したいと思う。特に、それが俳優の場合、作品の中では役を演じているわけで、インタビューでも役についての質問が多くなる。予めその作品を観て、感銘を受けた聞き手は、作品の魅力だけでなく、演者本人の魅力も引き出したくて、あれこれ質問責めにしてしまうわけだが、ふと、自分がインタビューされる側だとしたら、さぞかし大変だろうと考える。おそらく、本音のところでは、「作品の中に、すべての答えがあります」「受け取り方はその人次第。あなたが感じたことがすべてです」と言いたいのではないか。

水川さんの場合、今年の夏以降は、9月11日に『喜劇 愛妻物語』、同25日には、『ミッドナイトスワン』がそれぞれ公開となり、11月20日には『滑走路』が公開されるが、立て続けに、全くタイプの違う役での映画出演が続いたことになる。

『滑走路』は、いじめや非正規雇用などの逆境にもめげず、生きる希望を歌に託し、32歳で命を絶った歌人・萩原慎一郎さんの遺作『歌集 滑走路』を映画化したものだ。人が夢に向かって飛び立つためには、飛行機と同じように“助走の時間”が必要である。水川さんは、この映画の中で、30代後半に差し掛かり、自身のキャリアと社会への不安の間で思い悩む切り絵作家の翠を演じた。翠は、本音では「子供が欲しい」と思いながら、優しいけれども大きな決断は人任せの高校教師の夫との関係性に違和感を覚えはじめる。切り絵作家としての才能はあるのに、未来の不安の中で揺れている。『ミッドナイトスワン』で演じた金髪のシングルマザーや、『喜劇 愛妻物語』でのパワフルな不機嫌妻とは、対極にあるような静かな役だ。

(c)2020「滑走路」製作委員会

「この役をやってみようと思った理由、ですか? 最初に、台本と歌集を一緒にいただいて、先に台本を読んだんです。そうしたら、全体になんとも言えない不穏な空気を感じて……。頭の中にイメージした空気がグレーっぽくて、モヤがかかっていた。その中に、自分を翠として投影させた時、あんまり想像がつかなかったの。だから『やってみたい』と思ったんです。役を演じるというのは、私は、“縁”がすべてだと思っているんですね。『愛妻物語』は喜劇で、『ミッドナイトスワン』もずっと叫んでいるような激しい役で。作業としては、感情や動きをプラスしていく役柄が続いていた。でも、翠は逆に引き算というか。いろんなものを削ぎ落としていかないと、翠っていう役にはなれないのかな、と思った時に、『今、これをやれ』と言われているような気がしたんです」

撮影/山本倫子
Mizukawa Asami
1983年7月24日生まれ。大阪府出身。映画『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(97年/堤幸彦監督)で女優デビュー。近年の主な出演作に『明日の記憶』(06年/堤幸彦監督)『今度は愛妻家』(09年/行定勲監督)『バイロケーション』(14年/安里麻里監督)『福福壮の福ちゃん』(14年/藤田容介監督)『後妻業の女』(16年/鶴橋康夫監督)『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』(20年/成島出監督)『喜劇 愛妻物語』(20年/足立紳監督)『ミッドナイトスワン』(20年/内田英治監督)など。武正晴監督『アンダードッグ』は11月27日公開。現在Paraviで主演ドラマ『love⇄distance』、Huluで『住住(2020)』が配信中。