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『鬼滅の刃』、中1の娘を魅了した「いい子な主人公・炭治郎」…その〈新しさと古さ〉

「忠」「孝」から「ケア」へ
堀越 英美 プロフィール

炭治郎を貫くケアの倫理は、「弱きを助け強きを挫く」従来のヒーロー的ふるまいにとどまらない。裏方仕事をする者たちに感謝を欠かさず、兄を亡くした少年を文通で慰め、「お袋」呼ばわりされるほど上手な飯炊きで仲間たちの心を和ませる。

「柱(筆者注・鬼殺隊トップの剣士)の時間と君たちの時間は全く価値が違う」と合理性の観点から刀鍛冶の少年をないがしろにする柱の一人に、「こう…何かこう…すごく嫌!!何だろう/配慮かなぁ!?/配慮が欠けていて残酷です!!」と反論する。炭治郎の正義は言語化された原則に基づくものではなく、弱い立場の人が配慮されていないのが「嫌」という感情からくるものであることがわかるセリフである。

炭治郎のケアによって癒された人々は彼のために尽力し、ケアの相互作用によって炭治郎はますます強くなる。

 

相互にケアしなければ生き延びられない

弱者が淘汰されるのは自然の摂理だと語る鬼の猗窩座(あかざ)に対し、炭治郎はこう反論する。

「お前の言ってることは全部間違ってる」「お前がそこに居ることがその証明だよ」「生まれた時は誰もが弱い赤子だ/誰かに助けてもらわなきゃ生きられない」「お前もそうだよ猗窩座(あかざ)/記憶にはないのかもしれないけど/赤ん坊の時お前は/誰かに守られ助けられ今/生きているんだ」「強い者は弱い者を助け守る/そして弱い者は強くなり また自分より弱い者を守る/これが自然の摂理だ」(『鬼滅の刃』17巻)

強者だけが生きのびるに値するという社会ダーウィニズムを突き付けるネオリベ代表のような鬼に、24時間ケアが必要な赤ちゃん育児を知る炭治郎は「人間は相互にケアしあわなければ生きのびることができない」というもう一つの自然で対抗する。

「強い者は弱い者を助け守る」は、劇場版の重要キャラである鬼殺隊の煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)を貫く倫理でもある。年の近いきょうだい関係が多く登場するのも、「強い者は弱い者を助け守る/そして弱い者は強くなり また自分より弱い者を守る」という継承を描きやすいからではないだろうか。