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『鬼滅の刃』、中1の娘を魅了した「いい子な主人公・炭治郎」…その〈新しさと古さ〉

「忠」「孝」から「ケア」へ
堀越 英美 プロフィール

セリフとオノマトペを多用するリズミカルな語り口調で書かれた立川文庫は、小学校を終えてすぐ丁稚奉公に出されていたような貧しい勤労少年たちにもよく読まれた。

読みやすさもさることながら、少年少女の多くが家の仕事を担ったり、奉公先で過酷な労働に従事していた時代、訓練で得た技術と心の清らかさで出世する佐助のような「いい子」が大衆児童に好まれるのは必然だったろう。子どもたちが忍術ごっこに明け暮れる人気ぶりに、立川文庫禁止令を出した小学校もあったほどだ。

子どもたちだけではない。娘から『猿飛佐助』を没収した文豪の幸田露伴も、娘そっちのけで夢中になってしまったという(幸田文『ちぎれ雲』)。

幸田露伴〔PHOTO〕WikimediaCommons
 

忍術をトリックで再現した映画版との相乗効果で、ブームはますます過熱した。映画化によって人気が加速したところ、読み手が性別・世代を問わないところも、『鬼滅の刃』ブームを思わせる。

佐助はまた、助けた女性から手紙が届いても未読スルーしてしまうくらい堅物の少年で、彼の潔癖さを引き立てる女好きの同輩も登場する。このあたりも、清らかな炭治郎と女好きの仲間・我妻善逸(あがつまぜんいつ)の関係性を彷彿とさせる。

こうした潔癖・熱血なヒーロー像は、のちに立川文庫に代わって人気を博した読み物雑誌『少年倶楽部』にも受け継がれる。少年向けの熱血読み物文化は戦時中に愛国一色となり、戦後はマンガ文化にとって代わられた。1950年代に群を抜いて人気だったマンガは、少年剣士モノの『赤胴鈴之助』(1954年連載開始)である。父親の形見である赤い胴を身につけた主人公は、幕府転覆をもくろむ「鬼面党」らと戦いながら剣の修行を積み、成長していく。

単行本の見返しには、「親おもいで、心がやさしく、正しいことのためには、なにものもおそれずぶつかっていく勇気のある少年! 日本中の少年が、みんなこのような少年になってもらいたい」という作者のメッセージが、母の肩たたきをする鈴之助のイラストとともに記されている。鈴之助の正義のベースにあるのは、「孝」である。