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なぜフランスで「残酷な斬首テロ事件」が起きたのか、その「複雑すぎる背景」

はたしてムスリムとの対立が原因なのか

10月16日、パリ近郊の中学校に勤務する教員が、ロシア国籍を持つチェチェン出身のムスリムの若者に学校の近くで首を切断されるというショッキングな事件が起きた。授業で「シャルリ・エブド」紙に掲載されたムハンマドの風刺画を見せたのが理由とされる。

なぜこのような事件が起きたのだろうか。日本から眺めると、日本人には理解しにくいフランスの「ライシテ」という厳しい政教分離の考え方と、それに肩身の狭い思いを強いられているムスリムの対立が背景にあると見えるかもしれない。

たしかにこの対立図式は強力で、ある程度は妥当と言うことができる。だが、これではうまくピントを合わせたことにはならない。ライシテの考えには幅があり、大方のフランスのムスリムはライシテを受け入れているからである。

背景は複雑で、問題の規模はもはや収拾をつけるのが困難なほどに巨大である。ここでは、日本での報道が不十分だと思われる点、日本の読者には理解しにくいと思われる点を意識して、いくつかの側面に光を当ててみる。

この事件は起こるべくして起こったと言えるのか。フランス社会および世界の分断は深まる一方なのだろうか。議論の硬直化と状況の悪化は進む一方なのだろうか。そのようにも見えるが、そればかりではない点にも注意を振り向けたい。

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短期的な背景と中長期的な背景

今回の事件の短期的な背景としては、次のような流れを確認することができる。2015年1月に起きたシャルリ・エブド襲撃事件の公判が今年9月2日にはじまり、それに合わせて同社がムハンマドの風刺画を再掲し、世間の耳目を集めていた。

9月25日、シャルリ・エブド旧本社前で、同社を狙ったパキスタン出身の男が通行人を刃物で襲った。10月2日、マクロン大統領がライシテに関する演説のなかで、「イスラームは世界中で危機にある宗教」と発言した。