免疫学者が新型ワクチン有望報道を憂慮する、これだけの理由

予防効果90%以上だけでは不十分
宮坂 昌之 プロフィール

副反応は大丈夫か?

仮に有効率が高いワクチンであったとしても、重篤な副反応が起きる可能性は残ります。ワクチン接種で重篤な副反応が起きる頻度は100万回に数回程度です。ファイザーの第三相試験は4万3538人が参加していますが、ワクチン接種者はその半分の2万人超です。したがって、2万人超で重篤な副反応の有無を判断していることになります。この規模では副反応のリスクは正確にわかりません。

これまで開発されたワクチンの歴史をひもとくと、マウスなど実験動物を対象とした「前臨床試験」から承認まで行く確率はわずか4%です。承認されなかった96%の多くは、免疫反応はあったものの重篤な副反応があることがわかり、承認が見送られたものです。感染者を治療するために用いる抗ウイルス薬と違い、ワクチンは、健康な人が予防効果を目的に接種するものなので、通常の医薬品以上の高い安全性が求められます。

ワクチン接種によって起こる抗体依存性免疫増強(ADE)が本当にないのかも気がかりです。ADEとは、過去の感染やワクチンによって獲得した抗体が再び感染した際に悪く作用し、重篤化する現象です。実はコロナウイルスのワクチンではADEが発生しているのです。ただし、これは人間を対象にしたワクチンではありません。

実は、ネコにもコロナウイルスが存在します。ネコのコロナウイルス感染はひどい消化器症状を起こすことから、1990年代にアメリカでワクチンが開発されました。ところが、このワクチンを投与したネコでは、抗体が出来るものの、ウイルス感染は予防できず、発症後にかえって重症化したのです。ADEです。

ワクチン投与できた抗体は、予防効果のある善玉抗体ではなく、感染を促進させてしまうようないわば悪いことをする悪玉抗体だったのです。このようなことがヒトを対象にしたワクチンでも起きる可能性があるのです。

【写真】抗体依存性免疫増強(ADE)などの問題も懸抗体依存性免疫増強(ADE)などの問題も懸念される photo by gettyimages

今回の第三相治験では、新型コロナに感染したことがない人を被験者にしています。必然的にADEの可能性は調べられませんから、販売後に調査するしかありません。ただし、ワクチン接種群でも少数に感染は起こるはずなので、ADEが起こる可能性はありますが、頻度が少ない場合にはよほどワクチン接種群の数を増やさないとADEがみえてこないことになります。

ワクチンが臨床に安全に使用できるようになるまでは、いくつもの関門があり、第三相試験とはいえ、認可される前に発表された製薬会社の情報だけで大喜びするのは、いささか脳天気すぎるように思います。

ファイザーやモデルナだけでなく、世界中の多くの製薬会社がワクチン開発に参入しており、こうした勇み足が安全性の低いワクチンを世に送り出すことに繋がらないのか危惧しています。

米食品医薬品局(FDA)が認可すれば、ファイザーのワクチンは年内にも実用化される見込みです。同社は、日本政府とも1億2千万回分を供給することで合意しており、早ければ来年前半にもワクチンを接種することができるようになるかもしれません。

仮に新型コロナウイルスが承認され、接種できるようになったとしても、私は、しばらく接種を控えるつもりです。トランプ大統領はタイムワープ作戦と称して、ワクチン開発を急ぎましたが、医薬品である以上、最低限守られなければならないルールがあります。私には、有効性を発表したいずれのワクチンも、いささかルールを逸脱し、急ぎすぎているように思えてなりません。

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