免疫学者が新型ワクチン有望報道を憂慮する、これだけの理由

予防効果90%以上だけでは不十分
宮坂 昌之 プロフィール

有望なワクチンが開発されていること自体は喜ぶべきことですが、その評価については慎重であるべきです。私が憂慮しているのが、ファイザーもモデルナとも、臨床試験の最終段階である第三相試験が完全に終了していないにもかかわらず、暫定値を発表している点です。発表された有効率は、今後、臨床試験が進むにつれて変わる可能性がある仮の数字なのです。ファイザーは11月18日に最終分析の結果を発表しましたが、1週間報告を遅らせていれば、暫定値など発表する必要はなかったはずです。

またわずか中間報告から1週間足らずで最終報告に至っていることにも不安を覚えます。わずか1週間では、後述する重大な副反応の詳細な分析などは困難ですから、あまりに性急という印象は否めません。

「これまでのワクチン開発に関わるルールは、第三相試験すべてが終了するまではワクチン接種群、非接種群の内訳やそれぞれの感染者数などを明かさないというものでした」。というのは、次の理由です。

最近は第三相試験の途中で中間データを発表することはあるのですが、それは、たとえば「ワクチン接種群の成績が極めて良かった時に、それ以上試験を継続すると、非接種群が不利益を被る」というようなことが起こる可能性があり、これを避けるために、第三者委員会(DMC:データモニタリングコミッティー)が中間データを評価することになっているのです。

ところが、このDMCは治験実施側が指名する3名から成るために中立性が疑問で、必ずしも公平な判断をしていないと思われることがあります。

今回もこのDMCを通して中間データの発表があったのですが、総被験者数、感染者数にワクチン有効率の数字を出しているために、結果的に割付け情報の中身が見えてしまうという結果になっています。ところが、本来は、割付け情報の中身を出すということは治験の盲検性が失われることになります。

今回は、割付け情報の中身を推定できるような形で数字を出しているので、グレーゾーンですが、私は、禁じ手に近いと判断しています。

【写真】臨床試験は?有望なワクチンが開発されていること自体は喜ぶべきことだが、未確定な段階でデータを流すのはルール違反だ photo by gettyimgaes

もし、結果を明かすとすると、それは政治的、経済的など、何らかの意図があると疑われます(ex. 自社製品に注目をひきたい、株価を上げたい…etc.)。私は、全世界が待望しているCOVID-19向けワクチンであっても、従来の原則は守るべきだと考えます。

第三相試験は大変厳密なもので、ワクチン接種群とプラセボ(偽薬)群の2つのグループに分け、医師にも被験者にも(本物か偽薬か)のどちらを打っているかを明かさずに行います。これを「二重盲検法」といいます。「ワクチン接種を希望している人にも偽薬を飲ませるなんて!」と思われるかもしれません。でも、ここまでやらないとバイアスを排除できないのです。

もし、患者さんや担当医が事前にワクチンを接種していることを知っていたら、ワクチンの感染予防や重症化予防の効果を過大に評価するなどのアナウンス効果が生じてしまうのです。

参加している医師や患者さんが報道によって治験の内容を知れば、当然バイアスが生じ、検査の厳密性を損なう危険があります。患者さんが「90%以上の予防効果がある」と報道されているワクチンを接種していると知れば、「それほど有望なワクチンなら自分にだって効くはずだ」と思うでしょう。一連の報道は、調査結果に無視できない影響が出るでしょう。

【イラスト】両方のデータを示す必要があるのでは?万が一、データを明かす場合には、ワクチン接種群とプラセボ(偽薬)接種群のデータの両方を示すことが大事なはず illustration by gettyimages

もう1つ、気になる点があります。この中間調査も最終調査も、発症予防効果判定、安全性判定を2回目のワクチン接種からわずか7日目で行っていますが、これは短すぎると思います

ワクチンには特異的に獲得免疫を刺激する効果と、非特異的に自然免疫を刺激する効果の両方があります。2回目接種後のわずか7日目ではどちらの効果もおそらく出ているはずで、これがはたして今回のワクチンの新型コロナに対する特異的効果なのかは判定できません。もしかすると、抗体が関与しない自然免疫のみで感染が予防できたのかしれません。

2回目の接種後のもっとずっと後になってからでの判定でないと、発症予防効果のデータは解釈が困難です。また、これは安全性確認も同様です。脳炎や神経症状など免疫学的な理由によって起きる副反応は接種後2週間ぐらいから出てくるものもあります。この点からも、 発症予防効果判定、安全性判定を2回目のワクチン接種からわずか7日目 で行うのは適当ではないと思われます。

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