免疫学者が新型ワクチン有望報道を憂慮する、これだけの理由

予防効果90%以上だけでは不十分
宮坂 昌之 プロフィール

有効率の意味を正しく伝えていない

最初に質問です。予防効果が90%とは、そもそもどういうことでしょうか。多くの報道では予防効果が何を意味するのかほとんど語られていません。何の説明もなけれれば、普通の人たちは、ワクチンの予防効果が90%とは「100人にワクチン接種をしたら、90人に効果があった」と思うでしょう。

多くの人はこの図のような誤解をしている

実は、これは大間違いなのです。ワクチンの効き目は有効率という指標で比較します。新聞やテレビ局の多くは「ワクチンの予防効果が90%」と報じていますが、もしファイザーが報じている数字が正しければ、「ワクチンの有効率が90%」とすべきなのです。

ワクチン有効率は次の式で計算されます。

ワクチン有効率 =[1-(接種者罹患率/非接種者罹患率)]×100

この式を見ただけではわかりにくいでしょうから、具体的な数字を使って説明します。

たとえば、一定期間において、新型コロナウイルスワクチンを接種した人100人(接種者)と接種しなかった人100人(非接種者)の感染状況を比べます。もし、ワクチンを打ったにもかかわらずCOVID-19にかかってしまった人が5人いたとすると、接種者罹患率は5%となります。

一方、ワクチンを打たなかった非接種者100人中、COVID-19にかかった人が50人いたとすると、非接種者罹患率は50%となります。これを上の計算式にあてはめると、ワクチン有効率=(1-5/50)×100=90%となり、このワクチンの有効率は90%ということになります。

別の言い方をすると、「ワクチン接種を受けずに発病した50人の90%、すなわち45人は、接種をしていれば発病を防げた」ということになります。一方で、この例では、ワクチンを打たずとも50人はCOVID-19に罹らなかったということになります。

有効率90%を正しく図解すると

次の絵をみてください。この図は、大阪市大の廣田教授が作成された図を参考にして作り替えたものです。分かりにくいかもしれませんが、これがワクチン有効率を正しく図解したものです。先ほど挙げた図と比べると、随分と違って見えるはずです。

繰り返し説明すると、有効率90%ということは、非接種者と比較して、接種者の発病率(リスク)が「相対的」に90%減少した、ということです。すなわち、非接種で発病した人の「90%」は、ワクチン接種をしていたら発病しなかった、ということです。

・非接種者と比較して、接種者の発病率(リスク)が相対的に90%減少した ・非接種で発病した人の「90%」は、ワクチン接種をしていたら発病しなかった ・このような時に、ワクチン有効率は90%という(相対危険「RR:relative riskは0.1) 廣田良夫、福島若葉(大阪市立大学)の図を参考に一部改変

直感的にはなかなか理解しにくい概念ですが、「100人にワクチン接種をしたら、90人に効果があった」とは全く別の概念であることがご理解いただけると思います。

はたして、この記事を書いた方がどこまで有効率を理解されていたのでしょうか。多くの記事は有効率ではなく、予防効果という言葉を使っていました。私は多くの執筆者が「100人にワクチン接種をしたら、90人に効果があった」と思い込んで記事を書いたのではないかと疑っています。

第三相試験の中間報告は「禁じ手」

「多少間違っていても、ワクチンの有効率が高いことは喜ばしいことであり、目くじらを立てる必要はない」

そう思われる方があるかもしれません。確かにワクチン有効率が90%というのは極めて高い数字です。たとえば、インフルエンザワクチンは効き目が悪いことで知られており、年によっては有効率は30%しかありません。臨床試験の分析が正しければ、ファイザーやモデルナのワクチンはきわめて有望ということになります。

ファイザーやモルディナのワクチンは極めて有望ということになるが…… photo by gettyimages

事前の予想では、開発に成功しても、有効率はインフルエンザワクチンと同程度で、重症化予防にとどまるぐらいだと考えていましたが、ファイザーとモデルナの調査が正しいとすれば、それ以上の効果がありそうです。

関連記事