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霊に憑依された女性が、津波の犠牲者に覚えた共感と本音

津波が生んだ霊体験⑪
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」されたことのある高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、前回に続いて高村さんの体験を聞く。

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地縛霊になりかけている、大学生の霊

「おじいさんの名前は結局、最後まで霊視できませんでした」

「いいよ、いいよ。あとは?」

「先に大学生の男を出したいのですが……」

「ん?」

「多分、悪さをしていて、あまりよくないと思います。揉めるかもしれません」

「悪さって何だ?」

「その……、事故を起こしたりして……、まだ人は死んでないのですが、 地縛霊になりかけているというか……」

「ああ、それは悪いことをしてるなぁ」

除霊の儀式に慣れてきたのか、2人の会話から、なんだか流れ作業でもしているような雰囲気が伝わってきておかしかった。高村さんは、居間で金田住職とそんな雑談をした後、本堂に向かった。自分の足で歩いたかどうかの記憶がないというから、憑依した霊がすでに高村さんの体に入ろうとしていたのかもしれない。

通大寺の本堂

本堂の床に座ると、いきなり溺死の追体験が始まる。慣れてきたとはいえ、溺れる苦しさは変わらない。ただこの時期になると、できるだけ早くこの苦しみから逃れるには、抵抗せずに自分の体を霊に投げ出すことだと高村さんは思うようになった。

溺死の追体験が終わると、男の大学生らしい野太い声が高村さんの口から出た。

「うっ、苦しい。なんでこんなことに……」

押し殺したようなその声は、聞いていてもぞっとするほどだった。

「自分に何が起きたか分かるか?」

金田住職はゆっくりとした口調で大学生に尋ねる。

「体が、重い……」

高村さんが大学生の記憶にリンクする。亡くなるその日の映像が飛び込んできた。

男性は大学に入学してから下宿していたようだ。春休みに入ったので実家に帰ってきたというから県外の大学かもしれない。帰ってしばらくすると、地面が波打つような地震に見舞われた。家は無事だったが、激しい揺れに家の中が足の踏み場もないほど散乱して、その後片付けをしているときに津波に襲われたのだ。気がついたときはすでに遅く、あっという間に家ごと呑まれた。幸運にも家は壊れず、津波に揉まれながら、まるで舵を失った船のように右へ左へと流されていった。

すでに夕暮れ時のように暗くなっていて、凍りつきそうなほど寒かった。幸いに海に放り出されず、堅牢な家は奇跡的に船のように浮かんでいた。そのとき彼は「助かった!」と思った。あとは誰かに見つけてもらえばいい。岸から遠く離れなければ見つかるだろう。自分の幸運を喜んだ。大学生は「死にたくない、死んでたまるか」という思いで、屋根によじ登ろうとした

屋根に登ったほうが見つけてもらいやすいという算段があったのかもしれないが、考えて行動したというより、そうせずにはいられなかったのだろう。小さな小部屋の窓から外に出て、屋根の端をつかもうとしたときだった。津波に呑まれて溺れかけていた男が、海中からにゅっと手を伸ばしたかと思うと、大学生の脚をつかんだのだ

「あっ!」と叫んだが、体がググッと引っ張られて、溺れかけていた男と一緒に海の底へ沈んでいった。

再び高村さんは溺死を追体験する。