意図せぬ妊娠を女性は「安易」に考えてはいない

実は筆者自身にも、苦い経験がある。20歳のときの話だ。

つきあっていた彼とセックスをする際には必ずコンドームを使用していたが、ある日寝込みを襲われた。抵抗してもやめてもらえず、しかも避妊もしてもらえなかった。当時は、まだ日本に緊急避妊専用薬はなく、低用量ピル(経口避妊薬)も認可されていなかった。 妊娠したかも、と思って、すぐに浴室で洗い流すも不安はぬぐえない。その後もたびたび避妊なしで求めようとする彼が嫌で、ケンカ別れてしまった。

あの夜中の出来事で出来ていたら、生理がもしも次にこなかったら、と思うと、不安で仕方なかった。何の根拠もない方法だけれど、毎日のようにビデで洗浄してみたり、縄跳びを100回以上朝晩繰り返してみたり、わざと冷たいお風呂に入ったり、お腹をこぶしで叩いてみたりした。とにかく妊娠していないことを毎日祈り続けた。

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しかし、次の生理は来なかった……。スマホもない時代、ネットで簡単に病院を検索することもできず、怖くて恥ずかしくて誰にも話せなかった。地元から離れた少し大きな駅で降りて、街を歩いて産婦人科をいくつか探し、その中で一番患者の出入りが少なそうな病院を選んだ。そこで診断してもらうと、「妊娠していますね」と告げられた。

医師のその声とともに、全身の血液が下半身に流れ落ちるような感覚があった。あの何とも言えない感じは今も忘れられない。頭の中が空っぽになったような感じして、ボーっとしていると医師は大きな声で「相手の方の同意が必要ですよ。同意書にサインをもらってきてくださいね。嘘のサインはダメだからね。あと、セックスするならきちんと避妊しないと!わかっていますか!」と私を諭した。

「私だって、避妊はしたかったんです、避妊してほしかったんですよ、先生……」と声に出す気力もなかった。

誰も進んで意図せぬ妊娠をしたいわけではない。誰もジャッジメントはできない。(写真はイメージです)photo/iStock

病院を出てすぐ、別れた相手に電話をした。「ごめん、なんて言っていいのか……」とだけ言って押し黙る元カレに、頭に来て電話を切った。親にももちろん相談できない。一番仲がいい友達に電話をかけるとちょうど家にいた。「今からすぐ行くからそこで待ってて」の友達の声に、心細さの多寡が外れ、吉祥寺の丸井の前で人目も憚らず声に出して泣いた記憶は今も鮮明に残っている。

あれから、大きな別れや死別、自分が病気になる経験もした。でも、あの意図せぬ妊娠は、他に何かと比較ができないほど、私を不安にさせた。そして、その思いは生涯忘れることはないだろう。

寝込みを襲うような男とつきあっていた私が「安易」だったのかもしれない。
避妊をして、と私が懇願しても避妊してくれなかった男とつきあった私が「安易」だったのかもしれない。
寝込みを襲われても最後まで抵抗しつづけなかった私が「安易」だったのかもしれない。

決して自分を肯定するつもりはないが、でも、意図せぬ妊娠をする女性たちが、「安易にセックスをし、安易に中絶を選択している」とは思えないのだ。そして、なぜ女性だけが「安易」ととらえられてしまうのか。安易に避妊をしなくていいと主張し押し切ったのは一体誰だったのだろう……。セックスはどちらかの責任ではなく、お互いのものであり、互いにとって本来はよいものであるべきなのに……。