愛媛県八幡浜市で温州ミカンや中晩柑(ちゅうばんかん)といった柑橘を生産する農業生産法人(株)ミヤモトオレンジガーデンの宮本泰邦さんは「品種の流出が進むと、輸出ができなくなる」と危惧する。海外に流出した品種が現地で栽培されれば、そもそも日本から輸出する必要がなくなるからだ。
柑橘類の国内需要が減っているため、宮本さんは海外市場に期待をかけて、ジュースやゼリーといった加工品を輸出している。
「すでに取得済みの国際認証『グローバルGAP』を生かして、新品種を青果の状態で輸出できないかとも考えている。ただ、海外に種苗が出ていたら、それが無理になってしまう」
というのだ(グローバルGAPとは、農産物の安全性や労働環境、環境への配慮などを審査し認証する仕組みで、国際的に通用する)。
またこちらの写真は、中国の通販大手に出店しているある苗販売業者のページだ。日本で開発されたイチゴの苗と思われるものが豊富に並び、育成者権が切れていない品種と思われるものまである。当然収穫物や加工品も流通する。中国のネット通販で「日本新品種」という修飾語を冠したものは珍しくない。
この通り中国の果樹産業の振興に、日本は意図せずに大きな貢献をしてきた。味が良いだけでなく、病気にも強い日本オリジナルの品種が中国へと持ち出され、勝手に栽培されている例は少なくない。最も有名なのは「陽光玫瑰(陽光バラ)」という名前で定着したシャインマスカットだろう。
中には、「中国の研究機関が栽培を推薦している」と堂々とネットに書かれたものもある。日本から持ち出したたった1本の苗から一大産地を形成するとは考えにくいうえに、先述したように研究段階の種苗すら流出した可能性がある。日本からの種苗持ち出しを手掛けるブローカーの存在が窺われる。