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「餓死した犬」の霊が憑依。凄絶な「除霊」のゆくえ

津波が生んだ霊体験⑨
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」されたことのある高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、前回に続いて高村さんの体験を聞く。

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「2度死ぬ」とは?

前回の「妊娠していた30代の女性」だけではないが、通常、霊が高村さんに憑依すると、その霊が死んだときのことを高村さんが追体験するところから除霊の儀式が始まる。

高村さんの魂は肉体から遊離し、入れ替わりに高村さんの肉体を占領した霊の記憶と同期するようになるが、その霊が津波で亡くなったときのことを回想すると、もう一度溺死を追体験することになるそうだ。高村さんが「2度死ぬ」と言うのはこういうことだが、ぼくには、すでに溺死しているのに、また溺死するとはどういうことか、よく理解できなかった。

そのことを尋ねると、高村さんはこう説明してくれた。

「あの女性は、私の体に入って肉体を得ているので、溺死は記憶の中の出来事でしかなく、すでに過去になっているんです。でも、肉体から離されて魂だけになった私は、自分の肉体を通して女性の魂とリンクしているので、彼女が溺死を回想すると、再び溺死を追体験してしまいます」

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説明を聞きながら、ぼくは「はぁ」と生返事をした。よく分からなかった。「高村さんは彼女と一緒に回想するだけなのに、なぜ溺死するんですか?」

「女性は私の体を借りているので、溺死から生き返った状態になっています。だから、女性の中では過去の出来事として、自分が津波に呑まれるシーンがあるのですが、肉体のない私からすると、彼女が溺死を回想するとその記憶に引っ張られてまた飛んでしまうのです」

「う~ん、やっぱり分からない。魂だけになると、過去と現在を行き来して、同じ体験をするということですか?」

「だから彷徨う魂がいるんだと思います。成仏できない魂というのは、苦しみから抜け出せずにループしています。その苦しみに、魂だけになった私がリンクしてしまうんです」

う~ん、なんだか分かったようで、実際は理解できていないから、それ以上の質問もできず、「2度死ぬ」について対話はここで途切れてしまった。

「犬の霊」を、どうやって「除霊」するか

この日のラストは、犬の霊だ。

犬の記憶だから、詳しく知ることもできず、結果的に犬の物語はたいしたことがなかったのに、除霊の儀式にかかわった人たちには「伝説の犬」として記憶されているそうである。高村さんが頑健な男たちを次々とふっ飛ばしたからだ。

高村さんは、さすがに犬を憑依させることには強い抵抗があった

「犬には、なりたくない……」

「やっぱり犬はしんどいか。じゃ、今日はやめよう」

しばらく逡巡したが、思い直したのか、「住職さんたちが平気なら続けたい」と、犬の霊を受け入れることに。いずれ憑依した犬の霊を外に出さなければならないのなら、早く出したほうがいいと思ったようである。それにこの日は住職以外に4人の加勢があったので、安心感もあったのだろう。

「すごくお腹が減っているので、エサを用意してください」

金田住職はそれを聞いて飛び上がるほど驚いた。

「エサ? ドッグフードか?」

「さすがにドッグフードを食べるつもりはないです。犬が私の体に入ったら、水かけご飯を丼か茶碗に入れて持ってきていただけますか? 犬の名前はチャタです。入ったら暴れると思いますので、遠慮せずに私を押さえつけてください」

言い終わった頃には、すでに高村さんは半分憑依状態になっていて、住職夫人は、「すぐ準備するわ」と台所へ駆けて行った。