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宮城の寺で行われる「除霊」の儀式…津波から逃げ遅れた妊婦の霊が語ったこと

津波が生んだ霊体験⑧
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」されたことのある高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、高村さんの体験を聞く。

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押し寄せる「震災の霊たち」

除霊を続けている金田住職の表情には、次第に疲労の色が濃くなっていた。

高村さんに「震災の霊たち」が憑依するのは、東日本大震災から1年3ヵ月ほど過ぎた頃からだった。最初にワカナのお父さんが憑いて以来、まるで怒涛のように霊たちが押し寄せてきた。そのことで高村さんが毎週のように通大寺にやって来たこともそうだが、この頃の金田住職は、住職としての仕事以外に、仮設住宅を訪ねて震災の被災者から悩み相談を受ける傾聴ボランティアを続けていたことで、体力も精神力も限界に近づいていた。

この日は「50代の男性」「妊娠中の30代女性」そして「被災地の犬」の霊3体をまとめて除霊する予定だった。それにしても、まとめて除霊するなんて、除霊に関わっている人に尋ねても聞いたことがないというから、かなり異質なのだろう。

前回で紹介したのが、津波で娘2人と愛する妻を失い、悲しみのあまり後追い自殺をした「50代の男性」である。このとき、高村さんは初めて首吊り自殺を追体験したが、その苦痛はトラウマになりそうなほど強烈だったという。首が引きちぎられ、骨がバラバラになっていく苦しさは例えようもなく、首への衝撃と激痛は一瞬のはずなのにいつまでも続き、息ができなくて顔が燃えるように熱くなるのを感じた。その記憶は、現実の世界に戻った後も残っていて、高村さんの生活をも脅かしかねなかった。

通大寺の本堂

「英ちゃん、大丈夫か」

「50代の男性」を光の世界に送った後、意識を取り戻した高村さんに金田住職が声をかけた。この頃になると、高村さんの体は除霊にだいぶ慣れてきたらしく、目覚めた後、それほど時間を置かずに意識がはっきりするようになっていた。

「しばらく休むか」

金田住職は言ったが、高村さんは小さくかぶりを振った。

「いえ、次は女の人でお願いします。今度は自分が死んだことをはっきり理解してないと思います」

「わかった」

この日は金田住職以外に、彼の仲間4人が除霊の儀式をサポートしていたせいか、すぐさま「妊娠中の30代女性」の除霊の儀式に取りかかった。

この女性の輪郭について、高村さんは金田住職にこんな説明をしたそうだ。

「20代前半の若いときに、好きな男性に出会って結婚しました。おそらく男性の実家は東北の農家で、彼はそこの長男でした。結婚したものの、どうしても子供に恵まれず、10年ほど不妊治療を続けていましたが、何度か流産が続いて、もう諦めようとしたときに子供ができたようです。これまでたびたび流産しているので心配だったのでしょう、安定期に入って、もう大丈夫だとわかった時点で旦那さんに話すつもりで、まだ自分の母親にしか妊娠を伝えていません。母子手帳をもらってそれほど経っていない時期ですから、お腹もふくらんでいませんでした。そんなときに震災に見舞われたようです」

女性の霊に「憑依」される

高村さんが目をつぶり、扉を開けるように女性の霊を体に入れると、いきなりえずいて海水を吐く仕種をしながらのたうち回った。高村さんは、いや30代の女性は、片手で何かをつかむような素振りをしながら叫ぶ。

「助けて! 溺れる! 息ができない~」

呑んだ海水を吐き出すが、もちろん現実には何も吐き出してはいない。