「効率化」は幸福をもたらさない。〈コモン〉の力で社会変革を!

経済思想家・斎藤幸平氏に聞く【後編】
斎藤 幸平 プロフィール

共感の言葉で社会を変える

――斎藤さんの提案は「資本主義を止めよ」というインパクトが強いためか、ソーシャルデザインの文脈で語られることが多い気がします。インフラから制度まで、さまざまなものをエシカルにしていく。アンソニー・ギデンズが好例ですが、社会を変えるのは「こうすべき!」といった倫理的な「べき論」ではなくソーシャルデザインだと。マルクス自身がフォイエルバッハ批判の中で「啓蒙」批判をしていますね。「教えてやるからこうすべき」という「べき論」をマルクスが批判したとも取れる話ですが、「べき論」で訴えていくことについて斎藤さんはどう考えていますか。

 

斎藤 私は、人々は啓蒙されずとも「もうわかっている」と思っています。特に今の労働なんて、本人たちがバカバカしさに気づいていたりしますよね。だから私の言説に触れて「そうそう、これ俺(私)が感じてたことだよ!」ってなるかもしれない。気候変動もそうです。もう皆、わかり始めているんです。

『人新世の「資本論」』がこんなにたくさんの人に読まれている理由もそこにあります。「この本で私が教えている」というより「皆がうすうす感じていたことを言語化したら、反響があった」というイメージです。これは、「啓蒙」ではなく「共感」ですよね。

例えば、〈コモン〉の再生を目指す試みは日本にもいろいろあると思います。電気、水、給食、などそれぞれの分野で、バラバラの運動が進んできました。でも、〈コモン〉という概念を使うことで、そうした多様な問題はつながっていて、同じところを目指しているんだという気づきが生まれるはずです。

そして、これから若い人たちが新しい挑戦をするときに、利潤だけでなく、〈コモン〉を追求するプロジェクトを志向するようになってくれたら、と願っています。

――今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、ある意味で社会の不完全さ、おかしさ、ムダを可視化したともいえます。「うすうす感じていた」さまざまなものが鮮明になりました。

斎藤 エッセンシャル・ワークの軽視とブルシット・ジョブの増加、資源の浪費、気候変動まで、コロナ以前から少なからぬ人が感じてきた現代社会の危うさが明らかになっています。でも古い価値観では、対案が出せない。リベラル派の停滞の原因はそこにあるのではないでしょうか。

今こそ、新しい価値観をインストールする必要があります。特に気候変動に関しては、ミレニアル世代やZ世代といった「ジェネレーション・レフト」の若者たちが、変化の必要性への共感を広げています。彼・彼女らの感度に触れて、私も「共感の言論」の必要性を感じ、社会への訴えかけを続けています。

――その上で、「若者から変える」ことも大事ですが、もちろん「大人が変える」ことも大事です。

斎藤 もちろん、若者に希望を託すだけでは、無責任ですからね。私たち大人はジェネレーション・レフトからしっかりと学んで行動を起こし、自分たちの作り出したシステムにきちんと落とし前をつけないといけません。

(取材・文/正木伸城)

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