事実上の介護の強制

ただし、扶養義務者と高齢者の間で「引取り扶養」の合意ができれば、扶養義務の履行方法の一つとして、その中に介護も含まれることになる。今でも、義務者の一人が高齢者と同居して介護を担い、他の義務者がその費用を分担するという方法をとることがある。

社会的に「子(特に長男及びその妻)が親の世話をするのが当然」という意識が強ければ強いほど、引取り扶養が事実上、強制される。しかし、引取り扶養の場合には、共倒れを防ぐために、高齢者、扶養義務者、同居することとなる義務者の家族など、それぞれの意思を尊重し、無理にならないような配慮が必要である。家族介護は強制されない。任意だからこそ、介護者や家族と調整することが求められるのである。

このケースでは、祖母が認知症で介護に関して自分の意思を表明できないことから、子らが相談して女性に介護を委ねようとした。女性は父母の離婚後、母と暮らしたが、小学1年生の時に母が急逝し、児童養護施設に託された。その後、父方の祖母が引き取り、学費、生活費を工面し、ピアノも買ってもらい、幼稚園の先生になる夢も応援してくれた。

しかし、祖母は女性に対して厳しく、女性の存在を否定するような言葉を投げかけることも少なくなく、女性は中学生になると精神のバランスを崩し、睡眠薬を大量に飲み、何度も救急車で運ばれた。医師の勧めもあり、祖母との同居をやめ、叔母の家に身を寄せた。叔母の家では叔母の子どもの面倒をみるため、学校を早退したり部活を休むことがよくあった。

今回、そんな叔母から「祖母に学費を出してもらったのだから、女性が介護をするが当然だ」と言われ、女性は断れなかった。

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しかし、扶養義務は直系血族や兄弟姉妹という家族関係にあることから生じるものであり、かつて面倒をみてもらったり、世話になったことがあるから生ずるというものではない。このケースでは、扶養義務者と実際に介護をする者との自由な話合いによる調整がなされておらず、優先的な扶養義務者である子どもらが、法的知識にうとい孫に祖母の介護を押しつけたといわざるを得ない。