扶養の義務と介護

私たちの財産や家族に関する事項を規律する法律が「民法」である。民法は、1:配偶者、2:直系血族(祖父母・父母・子・孫など)と兄弟姉妹に対して、未成年・高齢・障害・病気・失業などのために経済的に自立できない人を扶養する義務を課している。

近親者の間には、自然の愛情、共同生活の連帯感などによって、自発的に扶養義務を果たすことが期待できるからである。扶養とは経済的な援助(生活に必要な費用の援助)である。私人間でなされる扶養である以上、義務者自身の生活を犠牲にしてまで、他者を扶養する必要はない。

したがって、扶養義務者に扶養能力がない場合には、扶養義務は発生しない。扶養能力のある扶養義務者が複数いる場合には、世代の近い者から義務を負う。今回の事件の場合このケースでは、子3人が能力に応じて負担してもなお不足する場合に、孫の女性が不足額を負担すればよいことになる。

孫が祖母と同居し、祖母の食費やおむつ代などを負担した場合には、本来は子らが孫に負担額を支払わねばならないところ、何も支払われていない。

ところで、高齢者が自分一人で生活できなくなった場合、経済的な援助とともに、身の回りの世話、介護が必要になることがある。明治民法(1898年制定)では、扶養義務の履行方法として引取り扶養が規定されており、老親など扶養権利者が請求すれば、裁判所から子に対して引取りが命じられることがあった。

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しかし、1947年の民法改正によりこの規定は削除され、扶養は純粋に経済的な援助に限定されることとなった。もし扶養義務として、高齢者を引き取って、あるいは高齢者の家で同居して介護することが強制されてしまうと、介護のために離職したり、ほぼ終日の介護のために扶養義務者やその家族が心身をすり減らしたり、ストレスから高齢者を虐待するような事態も起こりうる。

今回のこのケースはその典型例である。民法は、こうした事態を避けるために、扶養義務を経済的援助に限定したのである。

民法では、強制可能なことしか義務にしてはならないのである。したがって、高齢者が介護を誰かにしてほしいと思った場合には、専門機関や第三者から介護サービスを受け、その費用を自ら負担し、負担し切れないときに扶養義務者に扶養を請求することになる。つまり、扶養義務者に対して「介護」を請求することなどできないのである。