ロッキード事件は旅客機販売の商戦で起きた。ロッキード社はマクダネル・ダグラス社(MD)を抑えて全日空から受注を獲得し、勝利した。だが、ロッキード社から5億円のわいろを受け取り、「巨悪」とされた田中角栄がロッキード社を勝たせた最大の功労者というわけではなかった。
ロッキード社が危うくダグラス社に敗北しそうになった「最大の危機」で、ロッキード社のために大きく貢献したキーマンは、実は当時の通産相、中曽根康弘(後に首相)だった。ロッキード社元副会長カール・コーチャンが、回想録と嘱託尋問での証言でその事実を如実に語っている。
激しい商戦の舞台裏では、「インテリジェンス」が微妙に絡んだ人脈が力を発揮していた。窮地に陥ったロッキード社のために、形成を逆転させるよう中曽根に依頼したのは戦後日本の黒幕、児玉誉士夫だ。児玉は米中央情報局(CIA)の協力者だった。
ロッキード事件が表面化した直後、中曽根は大胆にも、アメリカ大使館員に事件を「もみ消す」よう求めた。その大使館員はCIA工作員だった疑いが濃厚だ。
なぜ事件にCIAが絡んでいたのか。『ロッキード疑獄』第三部では、岸信介元首相や児玉ら、戦後の「敗戦処理」から「経済発展」に至る日本の舞台裏で暗躍した政界と闇世界の紳士たちがCIAとどのようにかかわっていたのか、探っていきたい。