負けたら「不正」…混乱のアメリカ大統領選は、日本の合わせ鏡である

心理的亀裂が蔓延して
西谷 修 プロフィール

「自由の未来」のパイオニア、シリコンバレーはどうしているのか?

フェイクのヴァーチャル情報化でますます繁栄するから涼しい顔だったが、引き起こされる事態の迷走や、「どっちもどっち」の不道徳を社員らに批判されて、フェイス・ブックやツイッター社は「検閲」のまねごとをする。

けれども、混乱はヴァーチャル情報化をますますメイン・ステージに昇格させ、コロナ禍さえも「電脳化の未来」へのスプリング・ボードにしたようだ。

 

「偉大なアメリカ」派はどうしても「あと4年」の栄華の夢を保ちたい。トランプ自身も妄想権力に中毒だ。自分がアメリカを「自由」にしたから(たしかに!)。

彼らにとっては批判や反対はメディアの「フェイク」、「反米」陰謀である。選挙も権力と銃で死守する。この「赤い波」の上、敗北はありえない。負けるとすればそれは陰謀だ。保守派も自分に満足しているではないか。「選挙を盗む」のは許されない。最高裁も「解放」したはずだ。そんな妄想にトランプ自身も囚われているようだ。

慌てているのはトランプの陰に隠れていたいわゆる保守派だろう。それがいま、泥船から逃げようとしている。共和党は上院多数を維持した。だが「トランプ」を待望した多くの人びとは、「被害者意識」を固めて先鋭化するだろう。

一方、バイデンを押し上げたのは、彼自身の魅力などではなく、むしろ「差別や偏見からの自由」を求め、協調と連帯の「政治」を求める人びとの意志であり、カマラ・ハリスという黒白の分断をはみ出す女性がその象徴となった。

かつてチェイニー、今まではペンスといった「ヴァイス(悪癖)」が占めていた椅子に、すべての面で違った人が座る。それが「アメリカの栄光」を書き換えねばならないが、隠れた全力の抵抗が起こるだろう。それが「アメリカ」だから。

カマラ・ハリス上院議員(photo by gettyImages)

日本の合わせ鏡

日本でも、とりわけネット上でアメリカと同じような、というよりここがアメリカであるかのようなツイート合戦が繰り広げられたようだ。

それは、日本の右派こそがずっとアメリカの庇護に頼ってきたためで、そのアメリカは「強いアメリカ」でないとまずいのだ。それに、日本でもアメリカと同じような「分断・ヘイト」が存在し、一足先に「強い日本を取り戻す」という首相が登場し、長く政権を維持した。そして「外交」でトランプと平仄を合わせていたのである。

ひとことで言えば、歴史に根ざす同型の心理的亀裂が、「フェイク」メディアとともに蔓延していた。権力は法をほしいままに解釈運用し、メディアはそれをFOXニュースのように伝えていたのである。

だから、今回のアメリカ大統領戦は対岸の火事などではまったくなく、メディア空間の状況も含めて、日本の現在の合わせ鏡なのだといっていい

他でもない、この事態を理解するためにこそ、『私たちはどんな世界を生きているか』(講談社現代新書)は書かれた。

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