第1回公開討論会でのトランプ氏とバイデン氏(photo by gettyimages)

負けたら「不正」…混乱のアメリカ大統領選は、日本の合わせ鏡である

心理的亀裂が蔓延して
異常な事態となった、今回のアメリカ大統領選挙。熾烈な大統領選の背後には「政治」を超えた分断があると、『私たちはどんな世界を生きているか』の著者で哲学者の西谷修さんは言います。アメリカで起きていることから見えてくる、私たちの置かれた状況とは一体どのようなものでしょうか?

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「政治」ではなく精神病理の問題

「今回のアメリカ大統領選挙戦は異例だ」と言われたのはなぜか?

現職大統領のトランプ自身が、敗北を認めないのではないかと疑われたことだ。コロナ禍での郵便投票を「不正の温床」と牽制し、決着が裁判までもつれ込むとか、さらにはトランプ支持者が騒乱を起こすことまで予想された。大統領自身が選挙結果を認めないことが危惧されたのだ。

それには前段があった。黒人が警官にたやすく殺されることに抗議する民衆デモに軍まで使おうとし、混乱すると暴徒化だといって「法と秩序」の名のもとに弾圧する。「自警団」が現れて発砲しても、大統領はそれを「愛国者」だといって褒める。

一方、コロナ対策でロックダウンを課した女性州知事の拉致計画が露見する。その武装グループ(トランプ支持派)を、トランプは断罪するのではなく「待機しろ」という。

各地の投票所や開票所にはトランプ支持派が集まって「不正投票」に抗議。もちろん、対抗勢力も登場して衝突も起きた。軍内部では「不測の事態」に対しての行動が協議されたという。無政府状態が想定されたのだ。これは今回の選挙の本質をさらけ出す「異常事態」だ。

トランプとその支持者は、勝ったらそれはいい選挙、負けたら「不正」だと主張する。要するに、自分たちが勝つ選挙しか認めない。すでにこれは「政治」ではなく、精神病理の問題である。

トランプ大統領と支持者たち(photo by gettyimages)

異例というより「異常」というべきだろう。表向きは民主党候補と共和党候補の選挙戦だ。だが、そこにあるのは「政治」を超えた亀裂、トランプ支持者とトランプを拒否する人びととの対立、「アメリカ」のアイデンティティをめぐる対立である。恣意と権力妄想の権化を自分たちの代表として求める「アメリカ」と、政治の枠をそれでも守ろうとするもうひとつの「アメリカ」との対立。

だから選挙のルールはすでに否定され、タガが外れたままかろうじて境界線の浮標として立っている。

 

何がトランプを押し上げたか?

この選挙は、銃や斧で他者を追い払い自分たちの「自由の国」を作り上げた「根っからのアメリカ人」と、殺し合いはまずいし体裁が悪いから協議にしようという「妥協したアメリカ人」とのせめぎ合いである。

選挙や民主主義は「妥協」のシステムだ。そのシステムを纏いながら、銃を振りかざす権利を当然とするグループとその利用者、それをルールで縛ろうとする人びとが対立している。

前者は、自分たちが「アメリカ」を作ったと思い、それが「真のアメリカ人」だと思っている。ところが銃を取らなかった者や、奴隷だった黒人や、後でやって来た移民たちが「権利」をよこせという。それを認めないと、世界に向けての「アメリカ」は立ちいかない。「自由」は「内向き」ばかりではいられないからだ。そこで黒人にも、色のついた移民にも「権利」を認めなければならない。

自分で「自由」を勝ち取れない外国の面倒までみなければならないのか。「国際社会」と言うが、他国はどうせアメリカにすがって甘い汁を吸うだけではないか(特に日本!)。