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世論を操作して荒稼ぎ… メキシコの「フェイク拡散」ビジネスの実態

「アルゴリズム民主主義」の時代
デジタルは、私たちの社会をさらに自由に、豊かにしてくれる。だがその一方で、SNSの広がりは「真実」と「フェイク」の境界をあいまいにし、私たちは「フェイク」に踊らされるようになった。
このような世の中を、私たちはどのように生きていけばいいのだろうか?

メキシコでは、2018年に大統領選挙が行われ、激しいフェイクの応酬があったという。メキシコでは、フェイクを作るだけではなく、「フェイク拡散」ビジネスが横行している。
そのようなビジネスで荒稼ぎをしてきた人物の一人が、「フェイク王になる」と公言してきたという、カルロス・メルロ氏である。
彼は、どのような手法で荒稼ぎしてきたのだろうか。カルロス・メルロ氏への取材を通して、フェイクビジネスの実態に迫る。
「NHKスペシャル デジタルVSリアル」取材班による現代新書の最新刊『やばいデジタル “現実”が飲み込まれる日』から、その一部をお届けする。
 

「フェイク王」は世論操作の天才

フェイクビジネスを行っている人間への取材は難航を極めた。

そこでまずは、メルロ氏を長年取材してきたというジャーナリストに会うことにした。ネット分析の専門家アルベルト・エスコルシア氏は、ITを駆使し、フェイクビジネスの一端を暴いてきた。メルロ氏とはどんな人物なのか。

「彼は情報操作を行う天才です。その天才ぶりを説明しましょう」

エスコルシア氏は、さっそく、メルロ氏がたずさわったと見られる、一つの「世論操作キャンペーン」を見せてくれた。

それは、「#AMLO en Venezuela?」(ベネズエラになぜオブラドール候補?)というハッシュタグで、一枚の写真が添えられている。そこには、オブラドール氏と、ベネズエラの極左政権が繫がっていると誤解するように書かれた壁の落書きが写っていた。

拡散された写真

「メキシコの人は、ベネズエラのチャベス元大統領に始まる極左政権に対し良い印象を持っていません。ですから、オブラドール候補が、そんな極左政権と繫がっているように誤解させる記事を流すことで、オブラドール候補への印象を悪くする狙いがあるのだと思います」

このツイート自体は、必ずしもフェイクではないため、問題視されにくい一方、うまく「誤解」させることで世論誘導を行う、という巧妙な手口である。SNS側もフェイクは積極的に削除しているため、そうした監視の目をかいくぐろうとする狙いが垣間見える。

さて、メルロ氏が得意とするのは、ここからだという。このツイートをまずメルロ氏の知人が投稿、ボットなどを使って大量に拡散させる。そして、インフルエンサー(フォロワーが多く影響力がある人たち)の協力を得て拡散させることで、ツイッターのトレンド上位に浮上。一般の人の多くの目に触れることで、さらに拡散させ、テレビ局も取り上げる事態となっていった。

しかし、単純にツイートをたくさん投稿すればトレンド入りするものではない。エスコルシア氏が極秘に入手したメルロ氏の内部資料によると、最初の投稿から5分間が大事で、この間、「1秒間に150ツイート」を目指すという。極端に最初から投稿が多すぎても駄目で、あたかも自然に広がっていったかのように装う必要があるのだ。

これはツイッターのアルゴリズムによるものだといい、しかも日々変わるアルゴリズムを常に分析しないといけないのだと、エスコルシア氏は言う。こうしたアルゴリズムを元にトレンド入りさせる点が、人が真似できないメルロ氏の手口だと指摘した。

こうした一連の投稿は、わずか2日間で4000万回も閲覧された。

「私が伝えたいのは、ごく小さなネットワークでトピックを作るだけで、これほどの騒ぎを引き起こすことができるということです。メディアがニュースにして騒ぎを起こすというのが、目的です。この選挙はオブラドール氏の勝利には終わりましたが、もし負けていれば、このキャンペーンのせいだと言われた可能性があります。それほど、影響力がありました。私たちはこうしたアルゴリズムによって操作されているのです。いわば、アルゴリズム民主主義と言えるでしょう」