夫の死で、自分の「最古層」を見つけた

――「人の心は何層にもわたる層がある」という表現も素晴らしいですね。桃子さんは75歳のときに自分の最古層を見つけて覚醒します。若竹さんは63歳で作家デビューをしました。桃子さんと同じような経験があったのでしょうか?

若竹:例えば母としての立場では、先ほどお話ししたように、息子が大学で家を出る時。私の期待が重くのしかかっていたと言われて、自分の「層」について意識しました。実は、私自身も親からの重圧に苦しんで育ってきたんです。それなのに全く同じことをしてしまった、と、この時に気がついた。

それから、夫が死んだ時。「ほんとうの悲しみとはこれなんだ」と。本当に気が狂いそうになる悲しみというのを体験したときに、これまでの自分とは一変しました。これまで、私が“分かっていると思い込んでいた”ことは本当に分かっていたのかなって、自問自答するようになって。親の死はいずれ来るものだという覚悟があるものですが、夫の死は全く違いますね。

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――それから小説を書くようになったのですか?

若竹:それまでもずっと小説家にはなりたくて、思ったことや感じたことをノートに書き溜めてきてたんですが、夫が死んでからは、これまで考えてきたことを一気に吐き出すように書くようになりました。すると、それまでとは違う私が一気に見えてきたんです。やっと自分のテーマが見つかったと。

『おらおらでひとりいぐも』より