2017年、8年の年月をかけて完成した小説『おらおらでひとりいぐも』で作家デビューを果たした若竹千佐子さん。63歳にして文藝賞を受賞し、その翌2018年にはなんと芥川賞も受賞している。60万部突破のベストセラーとなった本作は田中裕子主演で映画化され、現在公開中。脇を固めるキャストも蒼井優や東出昌大と豪華な顔ぶれだ。

本作は、子供たちが巣立ち、やっと夫婦水入らずで残りの人生を楽しもうと思っていた矢先に夫・周造に死なれ、心にぽっかりと穴が空いた75歳の「桃子さん」が主人公。ひとり暮らしの彼女の頭のなかで拡がる会話で進むストーリーは非常に内省的だが、東北弁のリズムが軽快で、桃子さんが発する一言一言が人生の示唆に富んでいる。

原作者の若竹さんもまた東北の出身で、55歳のときに夫に先立たれている。哀しみにくれ、自宅に引きこもっていた彼女を見かねた息子さんから小説講座を勧められたことがきっかけで、本作の執筆に至ったという。最愛の人を失うことと向き合った若竹さんが、孤独の中で得た大切な気づきとは。

若竹千佐子さん

自分より子供が大事な親なんていない

――CGやアニメーションなど映画ならではの演出がありましたが、作品をご覧になっていかがでしたか?

若竹千佐子さん(以下、若竹):桃子さんという独りのおばあさんの脳内で繰り広げられる話を視覚化するため、彼女の寂しさを3人のキャラクターに擬人化するというアイディアがとても素敵で、面白かったです。田中裕子さんが素晴らしくて、おばあさんの孤独を絶妙に体現なさっていて……だからこそ、あの3人のキャラクターがワチャワチャしているさまが映えるというか。

周造から桃子にプロポーズするシーンには私の個人的な体験なども入れているので、若い頃の気持ちがよみがえりました。夫は東出昌大さん(桃子の夫、周造役)ほどカッコイイ男じゃなかったですけど。

『おらおらでひとりいぐも』より

――全体的にユーモラスなのですが、子供をもつ世代には非常に響くセリフが多いですね。例えば、「自分自身より子供のほうが大事だという親なんていない」とか。

若竹:女性の場合は母親になると、子供第一で生きてしまいがちですよね。でも、ある瞬間、ハッと気づく。子供より自分が大事だなって。子供に「頑張れ頑張れ」って期待するのも結局は自分のためで、そして、それが子供を締め付けていたんだということが、ある時にわかるんですよね。

私自身の経験から言うと、親って無自覚なまま子供を自分の競争の道具にしてしまっている時がある。子供のためを思って応援しているつもりが、結局は、母親としての力量を世間に見せつけるためにやっているだけ……というような。今、自分の子育てを振り返ると、色々反省点が出てきます(笑)。