SDGsは「大衆のアヘン」。資本主義に緊急ブレーキを!

経済思想家・斎藤幸平氏に聞く【前編】
斎藤 幸平 プロフィール

生産と労働そのものを変えなければ世界は変わらない

――斎藤さんは、まさにその不経済に待ったをかけようとしています。

斎藤 夢のような新技術なしで、今すぐにでもできる経済的で、サステナブルな改革は、計画的陳腐化に終止符を打ち、すでに生み出されたものを大切にすることで生産量や消費量をスローダウンし、スケールダウンしていくことではないでしょうか。

「スローダウン」するお金の使い方、生き方、働き方の可能性を探っています。そのときに武器になるのが、マルクスの考えなんです。近年、新しい『マルクス・エンゲルス全集』の刊行が進んでいます。全100巻を超える壮大な編集プロジェクトです。そこには、以前の全集にはなかった新資料が掲載されています。そういった新資料をもとに、マルクスの捉え直しをしています。

――マルクスの文献から、エコロジーや疎外のような現代にも通用する経済思想が読み取れるとの言説には、私も新しさを感じています。最も驚いたのは『人新世の「資本論」』に書かれていた次の個所です。「あえて挑発的にいえば、マルクスにとって、分配や消費のあり方を変革したり、政治制度や大衆の価値観を変容させたりすることは、二次的なものでしかない。一般に共産主義といえば、私的所有の廃止と国有化のことだという誤解がはびこっているが、所有のあり方さえも、根本問題ではない。肝腎なのは、労働と生産の変革なのだ」と。

斎藤 共産主義といえば、ソ連を思い浮かべる人が多いと思いますが、私からみると、ソ連は国家主導型の資本主義でした。資本家が所有していた生産手段を国が所有し、労働者に命令する人が資本家から官僚に変わっただけですから。

これはつまり、「所有」のレベルでの変革にすぎず、労働者にとっては「生産」の仕方はほとんど資本主義と変わらないままだったんですよね。今ご指摘があったように、マルクスのポイントは、生産を変えるという点が重要です。

その意味でいうと、SDGsだって、「買うものはエシカルに」とはいうけど、結局、生産には手を付けず、消費を変えるだけにとどまっているといえます。「エシカルじゃないハンバーガーではなく、エシカルなハンバーガーを食べよう」みたいな話をしている。エシカルさを追求するためにマイボトルやエコバッグを買ったりする。それが完全に無意味だとはいいませんが、「消費の内容が変わっただけに過ぎない」という認識は大事です。

――それこそ、よりオシャレなエコバッグを買おうみたいな競争が生まれる。エコバッグの製造コストもかさんでいく。

斎藤 やはり、生産と労働そのものを大きく変えなければいけないと思います。いま私たちは、あまりにも働きすぎていて、あまりにも多くを消費していて、エネルギーを使いすぎている。この事態を変えるには、消費者の個人努力ではまったく足りない。資本主義の論理や企業の飽くなき利潤追求に対するスローダウン革命が必要です。そこに知恵をもたらしてくれるのがマルクスです。

 

――かつてヴァルター・ベンヤミンは、「マルクスは、革命は歴史の機関車だと言った。しかしおそらく、事態はそれとは大きく異なっている。革命は、列車旅行をしている人類が非常ブレーキをかける行動なのかもしれない」と語りました。「革命=歴史を進化させるもの」という旧来のマルクス理解なら、そうも捉えられたでしょう。ですが、斎藤さんの仕事によって、マルクスの革命は歴史を進めるとともに非常ブレーキにもなり、さらに脱成長コミュニズム(後編にて詳述)という生産や労働、社会の持続的なあり方の足場づくりにも寄与することがわかってきました。

(取材・文/正木伸城)

(後編はこちら