SDGsは「大衆のアヘン」。資本主義に緊急ブレーキを!

経済思想家・斎藤幸平氏に聞く【前編】
斎藤 幸平 プロフィール

利潤の追求が生み出す無駄なコスト

――マルクスは「分業」が疎外を生んでいると指摘しましたが、分業は同時に、「何のためのコストか」ということを不鮮明にします。缶ジュースを例にとるとわかりやすいでしょう。ジュース自体の原価は2~5円ともいわれますが、自動販売機では130円くらいで売られていますね。

斎藤 ジュースの価格の上に、缶やペットボトルといった「うつわ代」、パッケージングやデザイン費、運送・保管コストなどが乗っかるからですよね。ジュースの使用価値は「好みの味で水分をとり、のどや体を潤す」ところにあるのに、それ以外のコストが付与されて、原価2円のものが130円で売られている。これってそもそも“経済的”じゃないですよ。テレビCMや広告、ジュースの製造工程の効率化等にはコストをかけるのに、いま言ったような不経済(=別の無駄なコスト)には文句を言わない。「よく考えたら変だよね」と思う人も少なくないでしょう。

――缶を製造する人、パッケージをデザインする人、缶ジュースを運ぶ人、在庫を管理する人、それぞれが分業していてバラバラなので、そのおかしさが見えにくくなっている。しかも生産の全体像がわかりにくいから自らの労働の意味もつかみづらく、働きがいも感じにくい。

斎藤 最近では、そこに「サステナブルです」「環境にやさしいデザインです」といった物語をつくるコストも加わっています。本当の意味でサステナブルを目指すなら、消費を減らすことが求められますが、今の社会では、サステナブルというかけ声で、販売促進を行っている。おかしいですよね。しかし、経済社会が資本主義である限り、この矛盾は消えません。

スマートフォンだって、原価と販売価格は相当に違っている。しかもスマホは短いサイクルで次々と新しいモデルが出るでしょう。そのたびに買い替えさせようと、大々的に広告が打たれる。その広告は、新モデルがいかにイノベーティブかを謳うけれど、果たしてそうでしょうか。そんなに革新的な機能は、実はない。

さらに言えば、この時代に必要な本当のイノベーションとは、長く使えて、環境にやさしく、「買い替えなきゃ」というストレスからユーザーを解放するものだと思うんです。

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――スマートフォンなどにみられる「ITの進展」は、わりとクリーンなイメージを抱かれがちですが、たとえばスマホの電池のリチウムやコバルトの採掘現場では急激な地下水のくみ上げなどが行われ、現地の人々の生活や生態系を壊し、果ては水質汚染や農作物汚染、環境破壊、景観破壊を引き起こしている。

斎藤 はい、それは『人新世の「資本論」』で指摘したとおりです。そういう現実があるにもかかわらず、MicrosoftやAppleが涼しい顔をして「技術革新でSDGsや脱炭素化を推進する」と言っているのなら、それこそ欺瞞でしょう。Appleの脱炭素社会に向けた対策はなにか? iPhone12に電源アダプタを同梱するのをやめたんです! 

それではまったく足りないし、そもそも、Appleはケーブルにしても、もっと互換性の高いものを使うべきです。ここにも、利益追求の限界が見て取れます。

――経済が追求するものの果てが不経済というのも皮肉です。