――いま、気候変動が切迫した問題として捉えられ、SDGs(=持続可能な開発目標)が注目を集めています。日本でも遅まきながら話題になってきました。そこに斎藤幸平さんが、かのカール・マルクスの名句になぞらえて、新刊『人新世の「資本論」』で「SDGsは『大衆のアヘン』である」と書かれた。衝撃でした。
斎藤 ひとつひとつの取り組みは、もちろん環境に配慮したものなのでしょう。しかし、大きな危険性は、別のところにあります。つまり「SDGsの方針をいくつかなぞれば、気候変動などの問題は解決可能だ」と、SDGsを免罪符のように思い込んでしまうことです。SDGsやグリーン・ニューディールは、環境に配慮しながら経済成長できるという空気を醸成しています。
しかし、多くの科学者が指摘し始めたように、そもそも経済成長と二酸化炭素削減は、求められているペースでは両立しえないものなのです。つまり、無限の経済成長を追い求める資本主義に緊急ブレーキをかけない限り、気候変動は止まらない。これが問題の核心部分なのに、SDGsはそこから人々の目をそらさせる。その点を危惧しています。
――ベストセラーになっている『人新世の「資本論」』で斎藤さんは、「資本主義ありき」のやり方では世界は立ち行かなくなると指摘されています。
斎藤 このまま気温上昇が続けば、漁業も農業も壊滅的な打撃を受け、食料難に陥り、海面上昇や干ばつで今の場所に住めなくなる気候難民も億単位で増えてきます。世界秩序も、国内秩序も不安定になるでしょう。
「2050年までに」と言わずに、一刻も早く、二酸化炭素排出量をゼロにする必要があります。ところが、資本主義のやっていることは、利潤を追求するために、人々の欲望を絶えずかきたてることだけ。ここに、資本主義の枠内で気候変動対策を行うことの限界が存在します。
言うまでもないことですが、私たちが生きていくために必須のものは生産を続ける必要があります。ところが、いまの経済が力を注ぐのは、ちょっとした品質の違いを広告やマーケティングでことさら強調して、顧客の購買意欲を刺激することですよね。化粧品のパッケージなどがその典型ですが、そうしたことに多大なエネルギーと資源を浪費する経済では、気候変動を止めることはできません。