「健康を維持し、執筆のペースを守る」芥川賞作家・遠野遥の「新しい小説観」

ーー悲しむ理由がなかった。悲しむ理由がないということはつまり、悲しくなどないということだ。(『破局』より)

今夏、デビュー2作目『破局』で第163回芥川賞を受賞し、平成生まれ初の芥川賞作家となった遠野遥氏。その受賞会見では、「状況に頭が追いついていない」との戸惑いや、「まあ受賞できた方がいいとは思います」「受賞はゴールではない」と、質問者の想定の範疇に収まらない対応が話題になった。
「目指す作家はいない」「小説もPDCAサイクルを回すだけ」(BUSINISS INSIDER)と、小説家のステレオタイプからは少し離れた場所から物語を紡ぐ29歳の新星は、執筆という自らの「仕事」をどのように捉えているのか。

遠野遥氏
 

「パソコンだけの机が理想」

ーー『文藝』冬号(河出書房新社)の作家アンケート企画で、作品の構想を練るのは「打鍵している時」と回答した遠野氏。キーボードと画面に向き合う、普段の執筆風景はどのようなものなのか。

遠野:まとまった時間が取れるときは、カフェで執筆をしていることが多いです。家でやるよりも外に出たほうが、スイッチが入るんです。カフェへはノートパソコンとウォークマンだけを持って行きます。

カフェの店選びについてのこだわりは特にありませんが、トイレがきれいじゃない店にはあまり行かないようにしています。そこで余計なストレスをためたくないんです。

机にあるのはパソコンだけという環境がいちばん集中できるので、資料を広げたり、ノートでメモを取ったりはしません。小説を書いている時は周囲の会話が耳に入らないように、ずっとイヤホンで音楽を聴いています。

ただ、ほんとうに短期間で仕上げる必要があるときには、家で書くこともあります。そういう時は音楽もなく無音で、集中して取り組みます。でもそればかりだと長くは続けられないと思っています。普段音楽を聴きながら書くのは、そのほうが楽しいからで、楽しいほうが長く続けることができますよね。どんなことでも、楽しくないと続けられなくなってしまいますから。