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スピノザが示す「ありえたかもしれない、もうひとつの近代」

私たちの「思考のOS」を入れ替えよ
17世紀オランダの哲学者、スピノザ。時代の転換点を生きた彼の思想に触れることは、いま私たちが当たり前だと思っている物事や考え方が決して当たり前ではないこと、別のあり方や考え方も充分にありうることを知る大きなきっかけとなると、哲学者の國分功一郎さんは話します。本日18日発売の最新刊『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』から、「はじめに」を特別に公開します!

スピノザってどんな人?

スピノザは17世紀オランダの哲学者です。

1632年、アムステルダムのユダヤ人居住区に生まれた彼は、1677年にハーグでわずか44歳の生涯を終えるまで、生前には2冊の本しか出版していません。

17世紀の哲学者・スピノザ(Photo by gettyimages)

残りの著作は、彼の死後、友人たちの手によって遺稿集として刊行されました。

スピノザの思想の核となる部分は、彼が死んでから世に知られるようになったのですが、その核こそ、本書で取りあげる『エチカ』に他なりません。

生前に匿名で出版した『神学・政治論』が無神論の書として取りざたされたため、スピノザはずっと危険思想家として扱われることになります。死後もスピノザへの攻撃は続きました。

故郷のユダヤ人社会からのけ者扱いにされるスピノザ(Photo by gettyimages)

しかし、その思想が忘れられたことはありませんでした。300年以上を経たいまも、多くの思想家・哲学者に影響を与え続けています

「エチカ」とは、倫理学という意味です。しばしば読むのがとても難しい本だと言われています。

たしかに、スピノザの書き方や思想のあり方は少し変わっています。『エチカ』を読み解くためには、何かしらの手引きが必要かもしれません。本書を通して、皆さんに読書の手引きになるお話ができればと思っています。

 

歴史的転換点を生きた哲学者  

それにしてもなぜ、17世紀の本をいま読む必要があるのでしょうか。

スピノザが生きていた17世紀という時代は、歴史上の大きな転換点でした。たとえば、いま私たちが知っているタイプの国家は、この時期に誕生しています。

この国家形態は「主権」という言葉で特徴づけられますが、私たちが「国民主権」という表現を通じて慣れ親しんでいるこの考え方がヨーロッパで始まるのも17世紀です。

学問に目を向ければ、デカルト(1596〜1650)が近代哲学を、ニュートン(1642〜1727)が近代科学を打ち立てるのもこの時期です。ホッブズ(1588〜1679)やロック(1632〜1704)の社会契約説も登場しました。

現代へとつながる制度や学問がおよそ出揃い、ある一定の方向性が選択されたのが17世紀なのです。

スピノザはそのように転換点となった世紀を生きた哲学者です。