えっ! 集団免疫では新型コロナ封じ込めが難しいって本当?

何も対策しないと6割が感染も大間違い
宮坂 昌之 プロフィール

抗体は善玉ばかりではなく、役なし、悪玉抗体もある

2番目に、抗体には善玉、悪玉、役なしの3種類があることから、単に抗体の量や陽性率を測定しても意味がありません。抗体を調べるとしたら、中和抗体(=善玉抗体)がどのくらいできていたかを調べるべきです。つまり、抗体は、量ではなくて質が大事なのです。

【写真】抗体抗体には善玉、悪玉、役なしの3種類があることから、単に抗体の量や陽性率を測定しても意味がない photo by gettyimages

3番目に、これも前に説明しましたが、60%という新型コロナウイルスの集団免疫閾値は、固定値ではなく、社会的な状況によって大きく変化します。たとえば、集団免疫閾値の算出する際に使われる基本再生産数R0(1人の感染者がまわりの免疫のない人のうち何人に感染させうるのかを示す数字です)を1.25と設定すると、集団免疫閾値は2割にまで下がります。6割ではありません。

4番目に、新型コロナウイルスの感染ではたとえ抗体ができても全員に中和抗体が十分にできるわけではなく、しかもその持続が数ヵ月ぐらいのようです。ということは、半年経つと抗体は大きく減ることが予想され、そうであれば、抗体陽性率を指標にして集団免疫の判定をすることは適切ではないということになります。

さて、ここでもう一度、集団免疫に関して、古い考えと新しい考えを対比することにより、頭の中を整理したいと思います。

まず、第一点です。古い考えでは、集団免疫の主役は抗体であるとされていましたが、新しい考えでは、自然免疫と獲得免疫の力をあわせたものがコロナに対する抵抗力を表します。

第二点です。古い考えでは、社会は免疫学的に均一な人から成り立っているので一定以上のウイルス曝露にあうと必ず一定の割合の人が感染するということになっていますが、新しい考え方では、社会を形成する人は均一とは限らないとしています。つまり、免疫学的に強い人と弱い人がいて、弱い人から感染します。感染が進むにつれて強い人が残るので、感染は一様には進まないのです。

【写真】社会を形成する人は多様社会を形成する人は均一とは限らないので、感染は一様には進まない photo by gettyimages

最後に第三点です。古い考え方では、一度免疫ができるとそれが一定期間持続してやがて集団免疫が形成されるとしていますが、新しい考え方では、個体レベルで免疫ができてもそれが一定期間持続するとは限りません。したがって、抗体陽性率によって集団免疫形成の有無を判定することは難しいということになります。とりわけ新型コロナウイルスの場合には、古い集団免疫の考え方はあてはまらないようです。

日本では当面、集団免疫は達成できないだろう

それでは、新型コロナウイルスに関しては、人口の何割が免疫を獲得したら集団免疫ができるのでしょうか? 既に説明したように、このウイルスについては、6割という率の集団免疫を得ることは、私は無理だと考えています。

一方、先ほど示したように、もし2割程度の人が免疫を獲得すればよいということであれば、果たしてその可能性はあるでしょうか。たとえば、1割の人は自然免疫でウイルスを撃退し、もう1割の人は感染経験によって一定期間のみ獲得免疫を得るという可能性です。

しかし、日本では、10万人当たりの感染者数は、全国どこを見ても10人以下であり、これまでの感染者数を全部合わせても10万人当たり58.5人です(9月12日の数字)。

つまり、人口の0.05%強しか感染していません。検査不足があったので、万が一、10人中9人の患者を検出しそこなっていたとしても、それでも人口の0.5%ということになります。このような数字から、日本で1割もの人が実際に感染をしてコロナに対する獲得免疫を得るような状況は、今後も果たして起こりうるのか、私には疑問です。

ということから、私は、自然の経緯に任せての感染だけを考えると、集団免疫を得ることが難しいのではないかと考えています。しかし、日本人の重症化率・致死率が低いことは事実で、これは感染の頻度が低いことが主な理由です。

 

そのように考えると、日本ではある程度の集団免疫は形成されつつある可能性がありますが、一方で、2020年7月から9月にかけて感染の第二波が到来して、感染者が急増している事態があり、さらに、特に免疫力が落ちているとは考えられない高校生や大学生の集団において大規模な集団感染が実際に起きているという事実を見ると、集団免疫は、少しは形成されていても、とても満足できるレベルからは程遠いのではないかと考えています。

一部に、日本人の大半は病原性の低い新型コロナウイルスに感染しており、既に集団免疫が確立されていると主張する方もおられるようですが、先ほど紹介したように日本人の10万人当たりの感染者数は、全国どこを見ても10人以下であり、感染を収束できるだけの集団免疫には遠く及ばない数字です。

したがって、「新型コロナ恐るるに足らず」と早合点し、3密回避、マスク着用、頻繁な換気などの対策を軽視するのは大変危険です。欧米で再び新型コロナウイルスが猛威を振るっていること鑑みれば、油断できる状況にはないこと明らかです。

【写真】外出先でも基本的対策3密回避、マスク着用、頻繁な換気などの対策を怠らないことが大切だ photo by gettyimages

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