トランプ再選となるか…アメリカを陰謀論で覆った「QAnon」の力

自律分散型の陰謀論製造メカニズムとは
池田 純一 プロフィール

このように情報社会では、人びとは行動心理学的知見に毒されがちだ。人間は非合理でバイアス持ちであるという見方は、いまやデフォルトである。しかも、こうした「人間の非合理性」に関する知識は、心理学の新たな知見の報告も含めて、ウェブ上で日々更新されるオープンエンドの世界だ。そのかぎりで、自分たちの世界の理解は常にベータ版である。それがゆえに、ググることをやめられない。もしかしたら一山当てることができるかもしれないからだ。

その点で、QAnonにおける「リサーチ」は、ビットコインにおける「マイニング」に近い。最初にQのドロップした謎の意味を発見した人が褒められる世界だからだ。ビットコインのマイナーが、ビットコインの台帳を書き換えるべく暗号解読に成功した暁に、新規のビットコインを報酬として与えられることと並行的だ。承認欲求の充足がQAnonの場合、フォロワーをその場に留めさせる報酬である。

そうして、ビットコインもQAnonも、インセンティブ設計を伴った自律分散型仮想社会として稼働する。その上で、ビットコインがドルや円のような現実通貨と交換可能になることで現実世界とのつながりを確保し社会的現実として定着したように、QAnonは、自分たちの代表を政治の現場に送り出すことで、懸案の世直しの機会を手に入れ、現実に根を下ろすことになる。Tea Party同様、無視できないというのはそういうことだ。政治の世界を通じて、ただの夢想も現実になるのである。

 

ヒッピーたちと似ている?

こうした様子はグループセラピーのようでもある。この点でQAnonもまた、60年代のリバイバル現象のひとつなのだ。サイケデリックなコミューンが戻ってきたようなものだからだ。

カウンターカルチャーの時代に「サイケデリック」の道を開いたティモシー・リアリーは、当初、メキシコのアステカ文明での利用から幻覚作用のあるマッシュルームを手にし、ついでLSDのような幻覚剤に手を広げ、遂にはアイソレーションタンクの開発にまで至った。その過程で人間の言動は文化依存型のゲームの実演だという認識を得ていた。そこから彼はLSD体験の伝道者としてサイケデリックの教祖とみなされた。その結果が、俗世を捨てたヒッピーたちによる数多くのコミューンの誕生だ。

こうして当時のアメリカ社会に幻滅したヒッピーたちはコミューンに遁走しLSDに耽溺していったわけだが、その様子はどこかQAnonと似ている。QAnonのフォロワーたちも、基本的には今のアメリカ社会に幻滅し、何らかの癒しになるものを求めてインターネットを回遊しQAnonにたどり着いた。

このようにQAnonのコミュニティは、ゲーム的なファンダムであるだけでなく、一種のグループセラピーのフォーラムのようなものである。そこでQのドロップした謎を自ら、ウェブ上をググることで「調査」し、そこで発見した新たな自分流の「事実」を報告することで、コミューンの「仲間」から称賛を得る。そうして社会から置いてけぼりを食らっていたように感じていた人も承認欲求を満たすことができる。一度褒められると、ウェブ上の調査を続けることにも快感が伴い、やがては中毒的に耽溺していく。そうして自分のことを理解してくれる癒やしの場としてQAnonは機能する。だが、もともとグループセラピーの実践方法も、60年代のカウンターカルチャー時代の心理学的探求に端を発していることを思うと、QAnonもまた、BLMやMeTooによって公民権運動やフェミニズムといった60年代的ムーブメントが復活している今だからこそ召喚された社会風景のひとつなのかもしれない。60年代との違いは、今日のコミューンたるQAnonは外部に対して扉をとざすのではなく、開放的であることだ。

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