トランプ再選となるか…アメリカを陰謀論で覆った「QAnon」の力

自律分散型の陰謀論製造メカニズムとは
池田 純一 プロフィール

興味深いことに、プロデューサーのJJエイブラムは、当時よく「Mystery Box」について語っていた。謎の箱は、開けずにおけばいつまでもその中身を自由に夢想できる。Qがドロップする謎は、まさにそうした、終わることのない謎、ミステリー・ボックスである。そして、一度その魅力に囚われたらおいそれとは逃げ出せない。QAnonのように、ひたすら「ググってはググる」を個人で繰り返すのでは、歯止めが効かなくなる。「フロー状態」と呼ばれるものだが、快感が伴う分、中毒性は高い。

この点でQAnonの首謀者がQを名乗ったのは上手かった。QuizのQ、QuestionのQ、QuestのQ、等々。Qとは「謎」と言っているのとは同じことだ。エネルギー省における最高機密ランクである「Qクリアランス」というのは多分、後付の理由だろう。

ちなみに陰謀論なのに、国務省や国防総省、あるいはFBIやCIAではなく、なぜエネルギー省なのか?と疑問に思う人もいるかもしれないが、それはエネルギー省が「核開発」と関わりをもつためだ。要するに、Qが核兵器製造の機密情報も掴んでいることが示唆されている。そのような、あれ?、どうして?、あ、そういうことか!、と思わせるところも、Qという存在の信憑性を高めることに一役買っている。

ともあれ、Qの謎かけにググることで対処するQAnonフォロワーからすれば、インターネットそのものがオープンエンドなダンジョンのようなものだ。そこから幻想の「ラビットホール(兎の穴)」に落ちるのはたやすい。

このようなQAnonのゲーム的特徴から、ARGのほかにもLARP(Live Action Role-Playing game)に似ていると考える人たちもいる。LARPは、言葉のとおり、RPGを、ゲーム画面の中ではなく現実空間で行うもので、本格的なものになると、ゲーム内の設定に合わせてきちんとコスプレをすることもある。サバゲーのRPG版とでもいえばよいか。

ARGとみなすにせよ、LARPとみなすにせよ、そこで行われているのは、もともとは「虚構」であると了解した上で、あえてそれを「現実/本物」とみなして戯れてみせる、というものだ。その意味では、初期参加者は、これが「プレイ(遊び)」であることを十分理解した上で、あえてその虚構に沿って行動していた。現実世界でプレイヤーというアバターを演じていたわけだ。

 

「イマージョン(没入)」の促進

こうしてQAnonでは、遂行的に現実が作られていく。この様子はビットコインに似ているところもある。匿名の人物がきっかけとなる「第一声」を挙げた後、それに続いてウェブの住人がその頒布に力を注ぎ、結果としてひとつの社会的リアリティを分散的に現出させているからだ。ビットコイン同様、匿名の人物が投じた最初の一石が、今ある社会が抱える「構造的欺瞞」に対する不信や憤慨を爆発させた。ビットコインのときは金融システムに対して、QAnonは政治システムに対する義憤だ。現代社会の統治者=エリートたちは腐っている、という憤りだ。

こうしたQAnonの伝播で決定的だったのは、触覚に基づく「イマージョン(没入)」を促したことだ。Qが提唱する“Do your research.”という態度は、ひとまず人にググらせることを促す点で巧妙な手口だ。見ただけでは人は信じない。触れることで得られる実感が愛着をもたらす。自分が手を動かしてなしとげたことに人は執着する。労力を注いだものが徒労に終わることを望まない。自己の正当化のためにも、むしろ信用を深めていく。そのうえで、時折、適度に承認欲求が満たされるような称賛が得られれば、もう離れられなくなる。キャッチセールスや詐欺商法と変わらない。

問題は、特に特定の誰かがそうした詐欺師として存在するのではなく、QAnonという場が総体として、そのように仕向けるような報酬システムを用意しているところだ。QAnonが、ゲーミファイされた陰謀論、とみなせるのもそのためだ。ひとりひとりにしてみれば「やった感」が大事であり、そのためには、報酬制という刺激が必要になる。この点では、すでに日常生活において、たとえば「ポイント制」のような、インセンティブ設計があって当然の社会になっていることも大きい。そもそも日常の多くがすでにゲーム化されている。インセンティブはあって当然だし、インセンティブがあればこそ、自らその場に引き込まれても仕方がないと自己弁護することもできる。

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