トランプ再選となるか…アメリカを陰謀論で覆った「QAnon」の力

自律分散型の陰謀論製造メカニズムとは
池田 純一 プロフィール

風向きが変わったのは2018年8月。正確には2018年7月31日、フロリダ州タンパで開かれたトランプのラリー会場に「Q」と書かれたプラカードを掲げる人たちが現れ、同じく「Q」と書かれた帽子やTシャツを身に着けた人びとも見られた。これを機に、メインストリームのジャーナリズムが取り上げるようになった。2018年は中間選挙の年であり、選挙動向のひとつとして気になるものだったからだ。だが、その結果、インターネット上でQAnonの情報が流れる場所も、4chanのようなナード臭の強いメッセージボードから、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアに移っていき、一般の人たちの目にも触れるものとなった。

その後、2019年8月にFBIがQAnonを、国内テロを喚起する恐れのある危険運動とみなしたことを公表したが、相変わらずインターネット上での活動は続いた。次にQAnonのブーストにつながったのは、今年に入ってからのコロナ禍だった。特に3月に入ってアメリカの都市部でロックダウンが敢行された結果、多くの人びとが自宅に閉じ込められ、もっぱらインターネット頼りの生活を強いられることになったのが大きい。そこではじめてQAnonに触れる人が大勢出てきた。

大手ソーシャルメディアの怖いところは、レコメンデーション機能により一度ニッチなコンテントに触れると、そのコンテントにタグ付けられた世界へと、自動的に引き込まれてしまう特性があることだ。陰謀論はそのようなニッチなコンテント――むしろジャンルの特徴通り「フリンジ」と呼ぶほうがいいのだろうが――の代表である。そうしてQAnonに触れた人たちはますますその内容や信奉者に馴染んでいく。

その結果、2020年の夏に全米各地で行われた予備選で、QAnon候補者が勝利するケースが複数生じた。中でも注目を集めたのがジョージア州第14選挙区の予備選で共和党の下院議員候補者として勝利したマージョリー・テイラー・グリーン。ここは伝統的に共和党優位な選挙区であるため、グリーン候補が下院議員になることは確実視されている。この頃から、QAnonは、インターネット上の単なる陰謀論から、現実の政治に影響を与える政治運動のひとつとみなされるようになった。

加えて同じタイミングで、QAnon(キューアノン)ならぬ“QAmom(キューアマム)”という活動も生じている。これは、ピザゲート由来のペドフィルへの恐怖に同調し、子どもを守ることに誓った母親(=マム)たちによって始められた運動だ。その一方で、QAnonが世界中に飛び火するケースも増えてきた。こちらの場合は、QAnonのもつ自律分散的特徴が影響している。

 

なぜこんなに世界に広がったのか

ところで、QAnonがこれだけ世界に広がった理由として、そのゲーム性を指摘する声は多い。自律分散型システムとしてビットコインのようによくできたシステムとみなす意見もある。実のところ、Qは一種のゲームモデレータのような存在だ。もともとQが4chanにドロップしたネタをもとにユーザーがゲームのように楽しんだところから始まったからだ。

この様子は、ゲーム開発者から見ると、現実の世界を舞台にゲームを楽しむARG(=Alternate Realty Game)に似ているのだという。ARGはあらかじめフィクションの情報を伝播し、その偽情報にしたがって、現実の世界を虚構のゲームとして経験していくものだ。その点で、「虚構」の情報と「現実」の世界を交互に行き来する。ARGは「代替現実ゲーム」と訳されることが多いが、alternateは「交互に」という意味で、ゲームのプレイのされ方を見ると、むしろ「虚構」と「現実」を交互に往復させる特徴から「虚実交差ゲーム」とでもしておいたほうがいいようにも思える。

ARGのパイオニアは、2001年にスピルバーグが監督した映画『AI』のプロモーションだといわれることが多いが、しかし、大衆的影響という点では多分、『LOST』の方が大きいだろう。2004年から2010年まで6シーズン続き熱狂的なファンを集めたドラマシリーズで、全編に亘り、謎が謎を呼ぶ展開が続き、オンライン上でその謎の探求に乗り出すファンダムのコミュニティがいくつも作られた。秘密を知りたがる欲望に火を点け、ウェブはその探索先になった。しかも謎といっても、視聴者に大人も含まれるため、宗教的なものや科学的なもの、あるいは両者の中間的なスピリチュアルでスーパーナチュラルでパラノーマルなものまで躊躇なく扱われた。ファンタジーというよりもライトなオカルトという感じだった。

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