トランプ再選となるか…アメリカを陰謀論で覆った「QAnon」の力

自律分散型の陰謀論製造メカニズムとは
池田 純一 プロフィール

4年前と比べたとき、今回、トランプ陣営を側面支援する極右グループがAlt-RightではなくQAnonに移っているのをみれば、この4年間で、熱狂的なトランプ支持者の論理も反リベラル論から陰謀論へと変貌したことがわかる。それは端的にトランプがホワイトハウスに入り、ワシントン政治のインサイダーになったことの反映だ。

Alt-Rightの場合は、白人優位主義の主張や、PC(=政治的正しさ)への反発としての「表現の自由」の強調、あるいは、生物科学に由来する人種の差異=優劣の容認、などといった、従来のリベラルな価値観に盾突き、明確に「もう一つの右翼」として反民主党の立場をとる議論を構築していた。

対して、QAnonは、大統領という権力を握ったあとでも薙ぎ払えない「影の権力機構」が存在し、その中にペドフィリアの変態がいるから叩き潰せ、というもの。いわゆる「真の支配者」、表向きの権力の奥に居座る真の権力者を想定する点で、典型的な陰謀論である。

もちろん、最初にメッセージをスレッドに落とした“Q”なる人物がいるはずなのだが――QAnon”とは“Q Anonymous”、すなわち「匿名者Q」の略称である――、Alt-Rightにおけるスティーブ・バノンやスティーブン・ミラーのような具体的なリーダーはまだ表にはでてきていない。

〔PHOTO〕gettyimages
 

「ピザゲート」とは何だったのか

このQAnonには「ピザゲート」と呼ばれる前史があった。

この言葉は、2016年の大統領選のさなか、Alt-Rightなどの反ヒラリーの集団によって唱えられた陰謀論、ならびにその一連の騒動の総称として使われている(ちなみに、ピザゲートという名の「ゲート」とは、ニクソン大統領を辞任に至らせたウォーターゲート事件にちなんでおり、アメリカでは政治的陰謀論の呼称によく使われている)。

2016年11月にWikiLeaksは、同年3月にハックしたジョン・ポデスタ(ヒラリーの選対マネージャー)の電子メールを公開したが、その中にヒラリーが関わる秘密結社の話があった。そのことにまつわる陰謀論だ。人身売買とペドフィル(児童性愛)を牛耳る国際的なネットワークが存在し、民主党の工作員とハリウッド・セレブ、そして「ディープステイト」と呼ばれるワシントン政治の黒幕たちが共謀しているというもの。ヒラリーの他に、ジョージ・ソロスやトム・ハンクスなどの名も挙げられていた。

では、なぜ「ピザゲート」と呼ばれるのかというと、ポデスタのメールの中にこのペドフィル・ネットワークの存在が記されているという内容を額面通りに受け取った男が、12月になり秘密の会合場所といわれたワシントンDCのピザ屋をアサルトライフルを携えて襲撃したからだ。

QAnonは、このピザゲートの拡大後継強化版である。

発端は2017年10月。“Q”なる人物が4chanに降臨し、ピザゲートをもたらしたディープステイトの陰謀はまだ続いていることを示唆する謎めいたメッセージをドロップしていった。そこから半年くらいの間は4chanや8chan(現8kun)、Redditなどの間で、もっぱらAlt-Right的な極右志向の人びとの間の流通でとどまっていた。

関連記事