イギリスでは新型コロナウイルスの感染が再拡大している

本のタイトルは映画から

Broken Britainの声を聞くということ
ブレイディみかこの『ブロークン・ブリテンに聞け』が刊行された。
2018年から2020年夏までの英国社会を描く時事エッセイ集だ。
EU離脱、広がる格差と分断、コロナ禍……、「暗い時代ほど書き残しておくべきことはたくさん転がっているのだ。」(「あとがき」より)。

秋になり、新型コロナウイルス感染拡大が再び深刻になりつつある英国からの、著者エッセイをお届けする。(「本」11月号より転載)
 

診療所の外で待つ人々

先日、NHS(イギリスの国民保健サービス)の診療所に行ったら、拍子抜けするほどすんなり予約を入れることができた。今年の初めから、朝8時に受付の前に並んでGP(総合診療医)から電話を貰う予約を取り、電話がかかってきたら自分の健康上の問題を訴え、GPが診察の必要ありと判断した人だけ診療所に行くことが許されるようになった。なのに、受付でダイレクトに診察の予約が取れたのである。

いったん帰宅して予約時間に再び診療所に行くと、待合室はテープで封鎖されていた。「外で待ってください」と受付の職員が言う。順番が来たら携帯にメッセージを送るので建物の中に入って来いというのだ。コロナ感染対策の一環らしい。

が、9月の英国はけっこう寒い。それでも人々は自分の番が来るのを待ってスマホを片手に辛抱強く戸外に立っていた。「今日は冷えるね」と震えているおじいさんや、「もう30分も待っているんだけど」と漏らす子どもを抱いたお母さんもいる。

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それでなくとも感染を恐れて診療所や病院に行く人が減っている。だからこそわたしも楽に予約を入れることができたわけだが、雨の日も風の日も外で待たされるとなれば、ますます診療所離れが進むのではないか。コロナ禍が始まって以来、英国では自宅で亡くなる人の数が増えていて、それも人々が病院に行くことを避けているからではないかと言われている。

不満の秋

「不満の秋」という言葉を最近よく耳にする。労働組合が広域ストライキを行った1978年から1979年にかけての「不満の冬」をもじった言葉だ。

今回の「不満の秋」はストではなく、コロナだ。今年7月、ジョンソン首相は、クリスマスまでには「平常」が戻るようにしたいと言った。そして人々を職場に戻す方針を発表し、日本の「GO TO EAT」キャンペーンの英国版、「EAT OUT TO HELP OUT」キャンペーンを行った。

だが、9月に入るとまた新規感染者数が増加し、政府の首席科学顧問と首席医学顧問が、このままでは10月には1日の新規感染者が5万人になるという予測を発表したため、再び政府は人々に自宅勤務を呼びかけた。最悪の場合には全国的ロックダウンの再実施もあると言う。「平常の」クリスマスなどとても戻ってきそうにない。