大ヒット『鬼滅の刃』、若者に刺さりまくった「炭治郎の一言」をご存じか?

「どうでもいい」を超えるもの
森島 豊 プロフィール

『鬼滅の刃』はこの世代に、言葉だけでなく、どのようにして、「この世にどうでもいいことなんて無い」という理由を伝えたのか。

あなたを必要とする社会がある

漫画では「この世にどうでもいいことなんて無い」と言える理由を、言葉ではなく、物語そのもので伝えている。歴史を喪失した人間には、新しい物語(his・story)が求められる。物語そのものがイメージを与え、生きる意味に気づかせていく。 

展開していく物語の中では、「どうでもよくない他者」がいることが示唆され、他者を守る使命に生きる喜びが暗示されている。つまり、「どうでもいいことなんて無い」と言えるのは、「どうでもよくない他者」がいるからだ。その他者がいるから「この世にどうでもいいことなんて無い」と言えるようになる。その他者は、はじめから存在するのではなく、つくっていく関係なのだ。

本作では、大事な存在がいるかどうかが決定的に重要になる場面が多い。愛する存在がいる。愛してくれた関係がある。それがその人物を立ち直らせていく。主役も悪役も、自分を取り戻す登場人物は、どこかでわずかでも誰かに愛された記憶があり、自分を愛してくれた人との経験を思い出すなかで自分を取り戻していく。

彼らは自分を愛してくれた「どうでもよくない他者」を見つけていく。そうすることで、自分のことを「どうでもいい」と思わない人々が生まれ、自分の存在意義を感じられるのだ。「あなたを必要とする社会がある。それがあなたを立ち直らせる」。物語そのものがその世界に導いている。

 

読者にこうした「重要な他者」を発見させるメッセージは、数年前に注目された、戦前の作品の漫画版『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)とも共通する。何のために生きるのか。どう生きるのか。この難しい問いに答えるため、この作品の物語もやはり、登場人物を不条理な現実に向きあわせ、「重要な他者」を発見させていく。関係の希薄な現代社会で、生きる意味を見失いかけている世代に通じる「他者のために生きる」というメッセージがここにある。