大ヒット『鬼滅の刃』、若者に刺さりまくった「炭治郎の一言」をご存じか?

「どうでもいい」を超えるもの
森島 豊 プロフィール

『鬼滅の刃』が通奏低音として響かせる世界観は、もしかするとコロナ禍に人々が強く抱いた想いに触れているかもしれない。2020年に起きた新型ウイルスとのたたかいは、現代社会が覆い隠していた問題をあらわにした。

容赦ない不景気は人々の存在を根底から脅かす。「感染者」「夜の街」「若者の感染」という文句は生き方に自信のない人々を圧迫する。不条理が人々に自暴自棄的な思いをおこさせる。「誰も必要としていない」。「生きていて、ごめんなさい」。この思いをどうすればよいのか。『鬼滅の刃』の爆発的人気の裏には、「どうでもいい」を克服したい読者の期待に応えた側面がある

 

カナヲ=現代人

テンポよく進む場面の背後に「どうでもいい」という虚無的なストーリーが潜んでいるが、この主題に正面から向き合った一つの印象的なエピソードに注目しよう 。自分で何も決められない一人の女性、栗花落カナヲ(つゆり・かなを)が出てくる。カナヲは鬼殺隊の一人で実力者でもある。

表面的には綺麗で美しく、笑顔で過ごしている。けれども、心の中は空っぽで、感情がない。幼い頃、貧困と虐待をうける中で、自分を守るために感情を失くし、親に売られ、名前も付けられていなかったという背景を持つ。彼女は何も考えない。次のように言う。

「考える必要はない。言われた通りに鬼を斬るだけ」

上からの指令には従うけれども、自分ではどんなに小さなことでも決めない。話しかけられた相手と会話するかどうかも自分では決めない。その理由を問うと彼女は答える。

「どうでもいいの。全部どうでもいいから、自分で決められないの」

彼女に夢はない。生きがいもない。ただ目の前にあることをこなすだけ。それでいい。極力話さない。もちろん意見は言わない。冷たいが、悪意はない。それが美しい。