ついに解明!「蚊」はどうやって人の手を避けているのか?

なかなか倒せないのにはこんな訳が……
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蚊は「羽ばたき方」も常識外れ

触角で障害物を検知しているというほかにも、他の虫には見られない特殊な性質を発見することができました。気流です。蚊の羽音を思い浮かべてみてください。「プ〜ン」という高い音がイメージできると思います。これは蚊の羽ばたきが非常に速いからです。

蚊と同じくらいのサイズのショウジョウバエは一秒間にだいたい200回ほど羽ばたくことが知られているのですが、蚊はその3倍以上の600〜800回、しかも振幅は40度と、ものすごく細かくすばやい羽ばたきをしています。

これまで測定されてきた昆虫の中で、最小の振幅で羽ばたくミツバチが約90度。その半分以下の振幅で飛べること自体とても驚かされるのですが、それを可能するため、蚊はみずからを支える特殊な気流を生み出し、飛んでいることがわかりました。

シミュレーションによって得られた渦の分布と地面の相互作用

 ──1秒間に800回羽ばたく !? どうやってそれを観察したのですか?

高速度カメラとシミュレーションです。蚊を8台の高速度カメラで撮影して、撮影データから翅(はね)の動きを測定し、シミュレーションを行なうという研究手法をとりました。

中でも苦労したのが、やはり蚊の動きを撮影する点ですね。動きを3次元的に捉えるには、複数台のカメラで同時に撮影しなければならないので、きちんと映る範囲はだいぶ狭まります。そのピンポイントなところを蚊に飛んでもらう必要があるので、動きを解析すること自体が簡単なようでかなり難しいんですよ。

当初は蚊を針金の先に固定してみたりもしましたが、固定されると当然逃げようとするため、自然なデータがとれなくて。最終的には、カメラに映る範囲の外側に水を含ませた脱脂綿を設置し、蚊が水を飲みに来る動線上を撮影範囲に入れることでなんとか撮影しました。

それでも、朝から晩まで撮影を続けて、うまくいくのが平均で1日に5回ほど。蚊がアクティブになる夕方以外はじっとしている時間も長く、撮影はかなり大変でしたね。

──研究をされていくうちに、次々と蚊の変わった特性がわかってきた中で、先生の中で蚊に対する印象はどんなふうに変化されましたか?

簡単につぶさなくなりました(笑)。

血を吸われるのは嫌だけれど、蚊は蚊なりに工夫しているし、結構精密なつくりをしているし……。親しみみたいなものを感じるようになりました。

これは私たちの研究以前からわかっていたことですが、蚊は気流以外にもものすごくいろいろな情報を検知していて。たとえば二酸化炭素や熱、人間の肌から出る物質などを触角で検知することで、人がいる場所を判断していると考えられています。

暗闇で、壁などの障害物を避けながら、寝ている人の血を的確に吸いに来られるのもそのためです。このように、蚊は小さな体のなかに、数々の情報をキャッチし処理できる、非常に優れたセンサーを持っています。

純粋にすごいですよね。でも、人の存在に関係なく、空気中に二酸化炭素や化学物質が含まれる場合もありますし、様々な情報が混在している空気の中でどうやって的確に人間だと判断しているのかなど、まだまだ謎も多いんですよ。

シミュレーションによって得られた、床があることによる蚊の周りの気流の変動量。青から赤に向かって、気流の変動が大きい箇所を表す

──私たちにとって身近な存在で、夏の悩みの定番でもある「蚊」ですが、まだまだ謎が多いとは意外です。

そうですよね。蚊取り線香や虫よけ剤に対する反応など、商品開発に関わるような研究はよくされているのですが、蚊の生態そのものの研究はほとんどされてこなかったのですね。蚊は空中を飛ぶので動きを解析するのが難しかったり、人間の血を吸うため扱いにくい面があったのでしょう。

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