「ロボットにロボットを作らせてはならない」ただ1つの理由

自然選択が働くと多様性を与えてしまう
更科 功 プロフィール

たとえば、アルフレッド・ラッセル・ウォレス(1823~1913)は、ダーウィンとほぼ同時に自然淘汰を発見した人として有名である。礼儀正しく欲のない人物で、終生ダーウィンを尊敬していた。

【写真】アルフレッド・ラッセル・ウォレスアルフレッド・ラッセル・ウォレス photo by gettyimages

しかし、細かく見れば、ダーウィンとウォレスの考えには、違うところが結構ある。それらの中で最大の違いは、ヒトの脳や精神についての考え方だろう。

ダーウィンはヒトにも他の生物と同様に、自然淘汰が働くと考えていた。ヒトと他の生物を、進化的には完全に連続したものと考えていたのである。これはヒトの肉体だけでなく精神についても当てはまる。

ダーウィンは『種の起源』(1859)とは別に、『人間の由来』(1871)も出版している。この本の中でダーウィンは、美的感覚や道徳などのヒトの高度な精神作用も進化によって形成されたと主張している。他の生物にも精神作用の萌芽的な形が見られることがある。それらとヒトの精神作用との間に、進化によって越えられないギャップはない、とダーウィンは言うのである。

一方のウォレスは、ヒトの高度な精神作用だけは自然淘汰の例外だと主張した。ウォレスは物質世界のほかに精神世界のようなものを考えていた。ヒトの精神は進化の途中で神から肉体に与えられたもので、自然淘汰によって作られたものではないと言うのである。霊的なものが関与しなければ、ヒトの高度な精神作用は作れないと言うのである。

ウォレスは自然淘汰の発見者の一人である。もちろんウォレスには、自然淘汰が一歩一歩進んでいく姿は見えていたのだろう。しかし、遥か彼方の山頂まで歩いていけるとは思わなかった。自然淘汰の力の凄さを理解し、遥か彼方の山頂まで歩いていけると考えたのは、ダーウィンだけだった。

 

ロボットの三原則

アイザック・アシモフの1950年の作品、『わたしはロボット』はSF小説の古典である。その中に出てくる2058年の「ロボット工学ハンドブック」には、以下のような「ロボット工学三原則」が示されている。

  • 第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
  • 第2条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
  • 第3条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

(『われはロボット』アイザック・アシモフ著、小尾芙佐訳、早川書房)

人間のような姿をしたロボットたちが、歩いたり話したりしながら人間と共存する世界は、しばしばSF小説やマンガで描かれてきた。

しかし最近は、ロボホンという小さなロボットが家庭内のちょっとした用事をこなしたり、ペッパーというロボットが飲食店で接客したりするようになってきた。また、大変残念なことだが、軍事用のロボットも急速に発展している。ロボットが人間と共存する世界は、すでに夢物語ではなくなりつつある。

【写真】ロボホンとペッパーロボホン(シャープ、左)とペッパー(ソフトバンク) photos by gettyimages

さすがに、自ら思考し自分で判断して動くような自律型のロボットは、まだ当分は製作できそうにない。しかし、人工知能の発展を考えると、そういう自律型のロボットもいつかは完成しそうである。そのときには、ロボットの三原則のようなものが必要になるだろう。

ちなみに、犬型ロボットであるアイボを開発するときに、ソニーはロボット三原則を定義したと言う。その三原則は、アシモフの三原則とは違うけれど、人間に危害を加えないことを第一とする点では同じである。

三原則より大切なもの

たしかに三原則のような規則は大切である。しかし、それ以前に、もっと大切なことがあるのではないだろうか。

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